ごろごろナッツたっぷりパウンドケーキ【神】
文字数 3,614文字
木々に囲まれたとある集落。そよそよと吹く風は芽吹いたばかりの花々を優しく撫でていった。
「うーん。今日もいい天気ねぇ。新しいメニューが思い浮かびそうね」
自身が持つ店の窓を開け、心地よい風に吹かれながら店主であるルゥフィリアが言った。栗色の艶やかな髪からぴょこんと飛び出た跳ねた耳、くりりとした瞳はまるで琥珀のように澄んでいる。洗い立てのフリルエプロンを手に取り、鼻歌を歌いながら自身が切り盛りする食堂を開ける準備を始めた。
こつこつ こつこつ こつこつ
よく磨かれた木の床の上を綺麗に整ったルゥフィリアの蹄が歩くと、まるで楽器のように鳴り響いた。その音を聞いたルゥフィリアはなんだか気分が盛り上がったのか、鼻歌も最高潮に達した。
「うふふ。なんだか楽しくなってきたわ」
独り言を言いながら、まずは子供たちの朝ごはんの準備にとりかかった。保冷庫の中から新鮮な卵と分厚いベーコン、ぱりぱりのレタスを取り出し目にもとまらぬ速さで調理を始めた。卵はしっかりと溶き解しておき、先にベーコンを焼き油をしっかりとフライパンに馴染ませてから卵を一気に流しいれる。
ジュワッ ふつふつ ふつふつ
熱した油が卵と触れ合い、ふわふわの卵へと変身していく。混ぜすぎないように気を付けながら適当なタイミングで大きなお皿へと盛り付け、ベーコンが乾かないようフライパンに残った油をかけた。あとはテーブルロールをいくつか取り出し、大きな窯の中へと放り、その間に次の皿の盛り付けを進めていく。
チン
窯から「できたよ」と合図があり、ルゥフィリアがミトンを装着してから窯を開けると、こんがりふっくらと焼きあがったテーブルロールが出来上がっていた。
「うーん。小麦のいい香り」
焼きたてのときにしか楽しめない小麦の香ばしい香りにうっとりとしながら、ルゥフィリアは最後の盛り付けへと移った。焼きたてのテーブルロールにあつあつジューシーなベーコンにスクランブルエッグ。最後に瑞々しいオレンジを添えれば完成。人数分の朝食が出来上がると、ルゥフィリアは二階で眠っている子供たちを起こした。
「朝ごはんができましたよー。起きてきてー」
ルゥフィリアの声に一番最初に反応したのは、子供たちの声ではなくどこか野太い声だった。
ぎしぎしぎし
「もう朝か……ふわぁあ」
のそりと現れたのは狼獣人のヴォルフだった。ヴォルフは昨晩、子供たちを寝かしつけようと子供たちの寝室に入ったが最後、そのまま子供たちと朝を迎えてしまったようだ。ヴォルフは見た目こそ怖いと思ってしまいがちだが、実際はとても心優しく子供たちの面倒を進んでみてくれるのでとても助かっている。
「あらヴォルフさん。おはようございます。子供たちはまだ夢の中かしら?」
「ん? ああ。ちょっと待っててくれ」
ヴォルフはそう言い、再び子供たちの部屋へ行き一人ひとり声をかけ始めた。その間に朝食の出し忘れがないか再度確認、食器の出し忘れがないかを確認をしているとまだ眠たそうな子供たちの声が聞こえた。
「……おはよう」
「おはよう。さ、冷めないうちに食べましょ」
「はぁい……」
子供たちは眠い目を擦りながら席につくと、両手を合わせ一礼。
「「いただきます」」
子供たちが先に手を出したのは、厚切りのベーコンだった。思い切り開かれた口の中に旨味たっぷりのベーコンが入ると、子供たちはみんな顔を見合わせ一瞬で幸せ顔に包まれた。ルゥフィリアとヴォルフは焼き立てのテーブルロールを食べやすい大きさに千切ってからもぐもぐ。少し硬めではあるものの、その硬さで何度も咀嚼しじわじわと旨味が溢れてくるこのテーブルロールが二人のお気に入り。
最後の油もパンでしっかりと拭って食べると、全員分のお皿は何ものっていない状態になった。そして全員で手を合わせ「ご馳走様」というと、子供たちは近くにある児童施設へ向かう準備を始めた。
「さぁさ、遅れないように準備していくのよー」
「はーい」
子供たちに声をかけた後、ルゥフィリアは朝食の後片付けを始めた。前は野菜は全部残していたのに、今はきれいに食べてくれる。それはきっとヴォルフが子供たちに言ってくれたおかげだと思っている。最初こそ怖がっていたが、今ではすっかりヴォルフのことを気に入っていて、どこへ行くにもヴォルフと一緒なのだ。
「別におれは構わない」
実子でないことも、きっと迷惑をかけてしまうこともすべて話を済ませてある。それでもヴォルフは嫌な顔一つせずに子供たちと接してくれるおかげで、長年の夢だった食堂を開くことができたのだ。ヴォルフには感謝してもしきれなかった。
「もう……わたしったら甘えてばっかりね」
洗った食器を並べながら、ルゥフィリアは呟いた。すべての食器を洗い終えたルゥフィリアは布巾で丁寧に水気をふき取り、食器棚へと戻していく。最後の一枚をしまい終えると、途中だった食堂の営業準備を始めた。
「じゃあ、子供たちを送ってくるね。おれはそのまま仕事に行ってくる」
「あ、もうそんな時間なのね。わかったわ。気を付けてね」
「「行ってきまーす!」」
「行ってらっしゃい!」
子供たちとヴォルフを見送り、食堂の出入り口のプレートを「Close」から「Open」へと変えルゥフィリアは自分に気合を入れた。
「さぁ、張り切っていくわよ!」
とんとんとん ざくざくざく
くつくつくつ くつくつくつ
じゅううう じゅううう
今日のランチは、ルゥフィリア特製のビーフシチューと厚切りトーストのセット。それと、オニオングラタンスープとハンバーグプレートのセット。どれもルゥフィリアが手間暇を惜しまないで作った渾身のメニューだ。
開店してからしばらく、店内はたくさんのお客さんで賑わっていた。そしてここにいるのは、お客さんでもありルゥフィリアの料理のファンでもある。みんな幸せそうな顔で料理を頬張り、中には目には涙を浮かべて喜んでいるお客さんもいた。
「あぁ……やっぱりきてよかったぁ……幸せだぁ」
「もう。オーバーね。ここでよければ、いつでもいらしてね」
「ああ……また来させてもらう。ありがとう。お腹だけじゃなくって、心も満たされたよ。気心しれた人と話しながら食べる料理って……なんであんなに美味しいんだろうな……ありがとう」
そう言いながらお客の一人はルゥフィリアとお客全員に感謝を伝え、料金を支払い退店していった。
「おれもよく一人で食べるけど、ここに来ると一味違うというかなんというか……」
「みんなの会話がご飯が美味しくなるスパイスって感じかな」
「そうそう。そんな感じ! ここにしかない雰囲気もあって、いつもよりご飯がすすむんだよな」
「あら。そう言ってもらえると嬉しいわ」
くすくすと笑いながらキッチンへ戻るルゥフィリアは、保冷庫から何かを取り出すと今いるお客さんの前にそっと差し出した。
「みんなが楽しくご飯を食べてもらえるよう、これからも頑張るわ!」
よく冷えた器に入っていたのは、この近くで取れる木の実をたっぷり使ったバニラアイスだった。
「これはサービスよ。さっき帰ったお客さんには、今度来た時に出すわね」
ルゥフィリアのサービスにお客さんは歓喜し、一口一口味わって食べていた。
ランチタイムが終わり、静かになった店内で今度はディナータイムに向けて準備をしているとルゥフィリアは何かを閃いたのか、その顔は満開に咲く花のように輝いていた。
ディナータイムも終わり、後片付けも済んだころ。リビングに入るとヴォルフに寄りかかるように眠っている子供たちはすっかり夢の中のようで、すーすーと寝息を立てていた。ルゥフィリアが入ってことに気が付いたヴォルフは人差し指を口の前で立てると、ルゥフィリアは静かにうなずきながらヴォルフの隣に腰かけた。
「今日もお疲れさん」
「ありがとう。ヴォルフさんのおかげで今日も素敵な時間を過ごせたわ」
「そ……それは……おれはただ子供たちの相手をしてただけだ……その……」
「うふふ。あたしったら、いつもヴォルフさんに甘えてばっかりね。ごめんなさい」
「い……いやぁ……それは……気にしないでもらって……」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら?」
「……なっ!」
「うふふ。冗談よ。からかってごめんなさい。でもね。あたしは、ヴォルフさんや子供たちはもちろん、お客さんたちにもっと笑顔になれるよう頑張るから。もっと美味しいご飯作ってみんなに幸せな時間を提供できるよう頑張るから……お手伝い……してくれるかしら?」
「も……もちろん。おれにできることがあれば……」
「ありがとう。ヴォルフさんがいてくれてとっても心強いわ」
そういうとルゥフィリアは子供たちをベッドの中に移動させると、今度は自分もベッドの中に入り体を休めた。リビングに一人になったヴォルフは天井から差し込む月明りを見て、何かを決意したのか力強く頷いていた。
「うーん。今日もいい天気ねぇ。新しいメニューが思い浮かびそうね」
自身が持つ店の窓を開け、心地よい風に吹かれながら店主であるルゥフィリアが言った。栗色の艶やかな髪からぴょこんと飛び出た跳ねた耳、くりりとした瞳はまるで琥珀のように澄んでいる。洗い立てのフリルエプロンを手に取り、鼻歌を歌いながら自身が切り盛りする食堂を開ける準備を始めた。
こつこつ こつこつ こつこつ
よく磨かれた木の床の上を綺麗に整ったルゥフィリアの蹄が歩くと、まるで楽器のように鳴り響いた。その音を聞いたルゥフィリアはなんだか気分が盛り上がったのか、鼻歌も最高潮に達した。
「うふふ。なんだか楽しくなってきたわ」
独り言を言いながら、まずは子供たちの朝ごはんの準備にとりかかった。保冷庫の中から新鮮な卵と分厚いベーコン、ぱりぱりのレタスを取り出し目にもとまらぬ速さで調理を始めた。卵はしっかりと溶き解しておき、先にベーコンを焼き油をしっかりとフライパンに馴染ませてから卵を一気に流しいれる。
ジュワッ ふつふつ ふつふつ
熱した油が卵と触れ合い、ふわふわの卵へと変身していく。混ぜすぎないように気を付けながら適当なタイミングで大きなお皿へと盛り付け、ベーコンが乾かないようフライパンに残った油をかけた。あとはテーブルロールをいくつか取り出し、大きな窯の中へと放り、その間に次の皿の盛り付けを進めていく。
チン
窯から「できたよ」と合図があり、ルゥフィリアがミトンを装着してから窯を開けると、こんがりふっくらと焼きあがったテーブルロールが出来上がっていた。
「うーん。小麦のいい香り」
焼きたてのときにしか楽しめない小麦の香ばしい香りにうっとりとしながら、ルゥフィリアは最後の盛り付けへと移った。焼きたてのテーブルロールにあつあつジューシーなベーコンにスクランブルエッグ。最後に瑞々しいオレンジを添えれば完成。人数分の朝食が出来上がると、ルゥフィリアは二階で眠っている子供たちを起こした。
「朝ごはんができましたよー。起きてきてー」
ルゥフィリアの声に一番最初に反応したのは、子供たちの声ではなくどこか野太い声だった。
ぎしぎしぎし
「もう朝か……ふわぁあ」
のそりと現れたのは狼獣人のヴォルフだった。ヴォルフは昨晩、子供たちを寝かしつけようと子供たちの寝室に入ったが最後、そのまま子供たちと朝を迎えてしまったようだ。ヴォルフは見た目こそ怖いと思ってしまいがちだが、実際はとても心優しく子供たちの面倒を進んでみてくれるのでとても助かっている。
「あらヴォルフさん。おはようございます。子供たちはまだ夢の中かしら?」
「ん? ああ。ちょっと待っててくれ」
ヴォルフはそう言い、再び子供たちの部屋へ行き一人ひとり声をかけ始めた。その間に朝食の出し忘れがないか再度確認、食器の出し忘れがないかを確認をしているとまだ眠たそうな子供たちの声が聞こえた。
「……おはよう」
「おはよう。さ、冷めないうちに食べましょ」
「はぁい……」
子供たちは眠い目を擦りながら席につくと、両手を合わせ一礼。
「「いただきます」」
子供たちが先に手を出したのは、厚切りのベーコンだった。思い切り開かれた口の中に旨味たっぷりのベーコンが入ると、子供たちはみんな顔を見合わせ一瞬で幸せ顔に包まれた。ルゥフィリアとヴォルフは焼き立てのテーブルロールを食べやすい大きさに千切ってからもぐもぐ。少し硬めではあるものの、その硬さで何度も咀嚼しじわじわと旨味が溢れてくるこのテーブルロールが二人のお気に入り。
最後の油もパンでしっかりと拭って食べると、全員分のお皿は何ものっていない状態になった。そして全員で手を合わせ「ご馳走様」というと、子供たちは近くにある児童施設へ向かう準備を始めた。
「さぁさ、遅れないように準備していくのよー」
「はーい」
子供たちに声をかけた後、ルゥフィリアは朝食の後片付けを始めた。前は野菜は全部残していたのに、今はきれいに食べてくれる。それはきっとヴォルフが子供たちに言ってくれたおかげだと思っている。最初こそ怖がっていたが、今ではすっかりヴォルフのことを気に入っていて、どこへ行くにもヴォルフと一緒なのだ。
「別におれは構わない」
実子でないことも、きっと迷惑をかけてしまうこともすべて話を済ませてある。それでもヴォルフは嫌な顔一つせずに子供たちと接してくれるおかげで、長年の夢だった食堂を開くことができたのだ。ヴォルフには感謝してもしきれなかった。
「もう……わたしったら甘えてばっかりね」
洗った食器を並べながら、ルゥフィリアは呟いた。すべての食器を洗い終えたルゥフィリアは布巾で丁寧に水気をふき取り、食器棚へと戻していく。最後の一枚をしまい終えると、途中だった食堂の営業準備を始めた。
「じゃあ、子供たちを送ってくるね。おれはそのまま仕事に行ってくる」
「あ、もうそんな時間なのね。わかったわ。気を付けてね」
「「行ってきまーす!」」
「行ってらっしゃい!」
子供たちとヴォルフを見送り、食堂の出入り口のプレートを「Close」から「Open」へと変えルゥフィリアは自分に気合を入れた。
「さぁ、張り切っていくわよ!」
とんとんとん ざくざくざく
くつくつくつ くつくつくつ
じゅううう じゅううう
今日のランチは、ルゥフィリア特製のビーフシチューと厚切りトーストのセット。それと、オニオングラタンスープとハンバーグプレートのセット。どれもルゥフィリアが手間暇を惜しまないで作った渾身のメニューだ。
開店してからしばらく、店内はたくさんのお客さんで賑わっていた。そしてここにいるのは、お客さんでもありルゥフィリアの料理のファンでもある。みんな幸せそうな顔で料理を頬張り、中には目には涙を浮かべて喜んでいるお客さんもいた。
「あぁ……やっぱりきてよかったぁ……幸せだぁ」
「もう。オーバーね。ここでよければ、いつでもいらしてね」
「ああ……また来させてもらう。ありがとう。お腹だけじゃなくって、心も満たされたよ。気心しれた人と話しながら食べる料理って……なんであんなに美味しいんだろうな……ありがとう」
そう言いながらお客の一人はルゥフィリアとお客全員に感謝を伝え、料金を支払い退店していった。
「おれもよく一人で食べるけど、ここに来ると一味違うというかなんというか……」
「みんなの会話がご飯が美味しくなるスパイスって感じかな」
「そうそう。そんな感じ! ここにしかない雰囲気もあって、いつもよりご飯がすすむんだよな」
「あら。そう言ってもらえると嬉しいわ」
くすくすと笑いながらキッチンへ戻るルゥフィリアは、保冷庫から何かを取り出すと今いるお客さんの前にそっと差し出した。
「みんなが楽しくご飯を食べてもらえるよう、これからも頑張るわ!」
よく冷えた器に入っていたのは、この近くで取れる木の実をたっぷり使ったバニラアイスだった。
「これはサービスよ。さっき帰ったお客さんには、今度来た時に出すわね」
ルゥフィリアのサービスにお客さんは歓喜し、一口一口味わって食べていた。
ランチタイムが終わり、静かになった店内で今度はディナータイムに向けて準備をしているとルゥフィリアは何かを閃いたのか、その顔は満開に咲く花のように輝いていた。
ディナータイムも終わり、後片付けも済んだころ。リビングに入るとヴォルフに寄りかかるように眠っている子供たちはすっかり夢の中のようで、すーすーと寝息を立てていた。ルゥフィリアが入ってことに気が付いたヴォルフは人差し指を口の前で立てると、ルゥフィリアは静かにうなずきながらヴォルフの隣に腰かけた。
「今日もお疲れさん」
「ありがとう。ヴォルフさんのおかげで今日も素敵な時間を過ごせたわ」
「そ……それは……おれはただ子供たちの相手をしてただけだ……その……」
「うふふ。あたしったら、いつもヴォルフさんに甘えてばっかりね。ごめんなさい」
「い……いやぁ……それは……気にしないでもらって……」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら?」
「……なっ!」
「うふふ。冗談よ。からかってごめんなさい。でもね。あたしは、ヴォルフさんや子供たちはもちろん、お客さんたちにもっと笑顔になれるよう頑張るから。もっと美味しいご飯作ってみんなに幸せな時間を提供できるよう頑張るから……お手伝い……してくれるかしら?」
「も……もちろん。おれにできることがあれば……」
「ありがとう。ヴォルフさんがいてくれてとっても心強いわ」
そういうとルゥフィリアは子供たちをベッドの中に移動させると、今度は自分もベッドの中に入り体を休めた。リビングに一人になったヴォルフは天井から差し込む月明りを見て、何かを決意したのか力強く頷いていた。