キュートな動物型もちもちクッキー【魔】

文字数 1,453文字

「……退屈だ」
 魔界の屋敷で一人、呟いた少年がいた。濃い紫色の髪、そんな髪色と同じぱっちりした瞳が少年の頭上をふよふよと漂っている。見た目はすごく幼く見える少年─カミュは、そのふよふよと浮いている紫色の瞳は様々なことを見通す魔眼だという。それが運命であってもというらしいのだが……実際にカミュに見通してもらった人物がいないのでその真相は不明。
 大きく背伸びをしてからふと窓の外を見た。窓の外はただ暗く、陰鬱とした雰囲気が漂っていた。そんな陰鬱な雰囲気な場所を好き好んで歩いている人影などなく、代わりに獰猛な魔物が唸り声をあげながら徘徊していた。
「……ふん」
 この屋敷にはカミュしかいない。そう。

。カミュは静かに腕をあげると、そこには暗く渦巻く空間が表れた。カミュは迷わずにその空間に進んでいくと、暗く渦巻く空間からぱっと明るくなりその先には可愛らしいクマのぬいぐるみたちがカミュの帰還を喜んでいた。
「やぁ。待っててくれたんだ。ありがとう」
 大きなクマはカミュをやさしく抱きしめる。しばらく大きなクマの抱擁に甘えるカミュに、大きなクマは何かを思い出したのか手をぽんぽんと叩くと大きなクローゼットを呼び出した。クローゼットを開け、何かを探すクマにどうしたのか尋ねるカミュ。すると、大きなクマは一枚の衣服を取り出しカミュに差し出した。それはいつもカミュが来ているタキシードとかではなく、真っ黒い異国のコートのようだった。パンツ部分にあたるのは白くて少しスカートに似ていた。
「これがどうかしたのかい?」
 カミュは大きなクマに尋ねると、クマは「今日は特別な日」だと身振り手振りでカミュに教えた。なるほどと唸ったカミュはさっそくその衣服を手にし、着替えを始めた。慣れない衣服のため、みんな総出で手伝いを行うときれいに着終えることができた。
「に、似合うかな?」
 大きなクマをはじめ、ほかのぬいぐるみたちも普段見ないカミュの衣装に大変喜んでいた。動きにくさもあるなか、カミュは頬を赤くしながら慣れない衣服の着心地を味わった。しばらくあちこちを歩き、だいぶ衣服に慣れてきたころに大きなクマはクローゼットから更に見慣れないものを取り出し、カミュに手渡した。それは円錐状のものとしっかりした紐だった。
「これは……」
 みたことのない代物にカミュは戸惑った。これはいったいなにをするものなのだろうと。そこでクマたちも一緒に悩みあれやこれや試行錯誤を繰り返した。すると、カミュはなにやらコツを掴んだのか、円錐状のものはくるくると回った。
「ま、回った!」
 どうやって回ったのかを思い出しながら、再度円錐上のものと紐を用いて回してみた。しかし、さっきみたいにくるくる回るのではなく、ふらふらとふらつきながら転げてしまうばかりだった。
「うーん……さっきは上手くいったのに……」
 段々感覚を忘れてしまい、どうやったのかを思い出すより先にカミュは円錐状の上部が平らになっている部分に乗り、自ら回ってみた。すると、その円錐状のものも一緒にぐるぐると回しだした。
「ははっ。これはこれで楽しいかも」
 まさかの機転にクマたちも驚き、カミュにあふれんばかりの拍手をしていた。円錐状のものを回すコツを完全に理解したカミュは、本来の遊び方とは違う遊び方で十分に楽しんだあと、クマたちに順番にハグを交わしカミュが本来住んでいる世界へと戻っていった。いつもなら着替えを済ませるのだが、今日のカミュはタキシードではなく黒と白の異国の着物を召したままだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み