笑顔満福福来る♪小判最中【神】

文字数 1,268文字

(今年はいい一年になりますよーーーに!)

 これでもかという思いをのせ、神社で初詣を済ませた。いやー、昨年はあまりいいことがなかったから、今年こそは……今年こそはいいことがあるといいなぁ。いや、今年こそは絶対いい年にするんだ。
 おれはそう心に決め、破魔矢にお守り、おみくじを買い帰路へと就こうとしたとき、背後になんか妙な感覚が走った。誰かがおれの後ろを歩いてる? んなまさか。そんなことは考えられない。気のせい気のせい。きっと祈りを込めすぎて少し頭がくらくらしてるだけなんだ。
 そう思っていたのだが、妙な感覚は収まらなかった。むしろ、その感覚は濃くなっているようにも感じた。そして、さっきまで聞こえなかった鈴のような音も聞こえた。おれは恐る恐る後ろを振り返った。本当は振り返らずにこのまま帰りたかった。けど、なんだか怖いもの見たさというのもあってか、振り向くとそこには大きな帆掛け船に見知らぬ男女が大勢乗り、先頭で変わった仮面をつけた男の人が扇子をぱたぱた仰ぎながら小判をバラまいていた。
「皆に福がめぐらんことを」
 え? え? え? なに? めぐらん? どうした? 新年早々なんか変わった人に後ろとられてるんですけど。おれは思考がぐるぐるとまわり、まるでスロットのリールが順番に止まるように答えが浮かんだ。

                 逃 げ ろ

 おれはくるりと踵を返し、その帆掛け船から全力で逃げた。これは関わってはいけないやつかもしれない。いや、関わっちゃいけない。おれの直観はそう告げていた。
「わたしは皆に福を授けに……待て、なぜ逃げるのだ」
 言わなきゃわからんか。そりゃあ、こんな誰も通っていない道にそんな大きな帆掛け船にたくさんの知らない人が大勢乗ってて追いかけられたら逃げたくもなるっての!
 そもそもなんでその帆掛け船、宙に浮いてるのさ。色々な疑問について解消したい気持ちもあるけど、今はそんなことは構わない。とりあえず、この状況から少しでも逃げないといけない。おれは残ってる力を振り絞り、大きな帆掛け船から逃げた。

 無我夢中で走り、背後の状況を忘れていたおれ。ぜえぜえと呼吸をしながら背後を確認すると、あの大きな帆掛け船は追いかけてはいなかった。どうやら無事に撒けたようだった。その安心感からか、急に足の力が抜けその場にぺたんと座ってしまった。はぁ、なんだよ。新年早々、なんであんなのに追いかけられなきゃならないんだよ。
 そういえば、おれが走って逃げてるときにあの……変わった仮面を持っていた男の人の声が聞こえたな。確か……。
「なんということだ……福を授ける前に逃げられてしまうとは」
 すっごく残念そうな声だったけど、そりゃあなぁ。もし、その男の人が神様ならもう少し出方を考えたほうがいいかもしれない。だけど、そのアドバイスをするのならまた会わないといけない。さてさて、あの男の人はそのことに気が付くことができるのかな。とりあえず……一刻も早く部屋で寝ころびたいおれは、ゆっくりと立ち上がりながら今度こそ帰路へと就いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み