ちょっぴりビターなブロックチョコ【魔】

文字数 1,495文字

「……お母様。お父様」
 暗い森の中で手をこすり合わせている少女がいた。名前はリリティエ。自身の誕生日プレゼントに入っていた茨のイヤリングをつけてしまい、イヤリングはまるで意思を持っているかのようにリリティエに近付くものすべてを傷付けてしまう。それにより、リリティエは家族と長年過ごしてきた屋敷から出ることを決めた。母親も父親も、屋敷の中で働いてリリティエに優しくしてくれるお手伝いさん。本当は離れたくはない。だけど、これは愛しているからこそ離れるというリリティエにとってはとても辛い判断だった。
「はぁ……やっぱり夜は冷えるわね」
 自身の息を手に吐きつけこすってみるも、あまり大した暖にはならないがやらないよりはましだと思いリリティエはしばらくそうしていた。次第に寒気が勝ってきたのか、手だけではなく足先も冷えるように感じたリリティエは自身の首に巻いてあるケープを取り足元にかけた。これも焼け石に水なのかもしれないが……これしか暖を取る方法がなく体は徐々に震え始めた。
「……寒い……」
 屋敷にいるときは、暖炉のある部屋でみんなと笑いあっていた時間もあったり、少し夜更かしをして紅茶を楽しんだりとできていたけど……今はそれが叶わぬ状況。一刻も早くこの茨のイヤリングを外す方法を探さないと。リリティエは忌々しくイヤリングを見てそう決意した。
「いやっほー!! お待たせぇ~!」
 突然、聞きなれない声にリリティエは顔を上げた。さっきまで一人しかいなかったというのに、今は目の前に爽やかに笑っている一人の女性が立っていた。それに……この女性が立っている部分の一部がとても暖かく感じた。
「お届けものでーす! リリティエさんはあなたで間違いないですか??」
 見ず知らずの人に自分の名前を言われるのに驚きながらも、リリティエは小さく頷いた。
「よかった~! 間違ってたらどうしようかと思ってましたよ。あ、はい、これ。お届けです」
 金色の髪をした女性がリリティエに小さな箱をいくつか手渡すと、その女性は「確かに届けましたよー! んじゃねー!」と言い、どこかへ飛び去ってしまった。暖かい光を残して。
「なにかしら……この箱」
 ケープを首に巻き直し、箱を調べてみるがどこにも送り主の名前が書いていない。仕方なく箱に貼られているシールを静かに剥し中を開けた。そこには様々な形をしたチョコレートが入っていた。箱の裏には何か貼っていたらしく、はらりと小さな便箋が落ちた。開くとそこには見慣れた文字で「リリティエへ」と書かれていた。
「これは……お父様からだわ!!」
 まさかのプレゼントに喜ぶリリティエ。さっきまでの寒さはどこへやら。久しぶりに見た父親の字を見てほっと安心していた。
「みんな、元気そうでなによりだわ。こっちのは……お母様。それとこっちは……友人一同。まぁ、なんて素敵な贈り物なのかしら」
 贈られた箱を見ては懐かしみ、箱を開けては笑みが零れ、チョコレートを口にしては心がうきうきと跳ねた。今までこんなに美味しいチョコレートを食べたことがあっただろうか……。リリティエは贈ってくれた両親や友人はもちろん、これを届けてくれたさっきの金色の髪の女性にも感謝の意を込めて祈った。そして半分以上残して蓋を閉じた。
「残りはまた今度食べましょ。そしていつか、このイヤリングが外れたときはみんなで一緒に食べたいわ。それまでは……頑張らないといけませんね」
 チョコレートを食べて元気をチャージしたリリティエは、さっきの女性が残してくれた暖かい光の中に入り体を休めることにした。その日、リリティエの寝顔はとても嬉しそうに微笑んでいた。
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