きよらかぷるるん♪サイダーゼリー【神】♒

文字数 4,000文字

 とある暑い日。外はもちろん、部屋の中もうだるような暑さにみんなのやる気が削がれていた。幸運なことに、依頼もなく今はただただ暑さにぐったりすることしかできない状態だった。そんな中、ギルドの誰かが自分で依頼を出したという声を聞き、ぼくは汗を拭いながらその依頼を確認しに、ギルドホールへと行ってみた。そこには「みんなで川で遊ぼう!」という依頼だった。依頼というかみんなと一緒に涼むのはどうだろうかという提案だった。確かにこう暑くてはやってられないという声があちこちで聞こえる中、ぼくもその意見には大賛成だった。ぼくは早速自室で身支度を済ませると、依頼書に書かれていた集合場所へと駆けた。
 ぼくが集合場所へと着く頃には、すでにたくさんのギルドのメンバーが集まっていた。中にはすでに水着で来ている人も準備万端だなぁと心の中で呟いた。
「そんじゃあ、時間になりましたんで行きますかー。これは、おれからの

だからな。みんなで涼もうという

だからな!」
 恥ずかしそうに顔を赤らめながら依頼書を作成した人は言っていたけど、それはきっとこんなに暑い中、みんながどうしたら元気になれるかって考えてくれた結果なんだなと思うことにした。依頼者の元気な掛け声のあと、ぼく達はぞろぞろと依頼者の後に続いて歩いた。

 歩くこと数十分。ぼく達は木々が生い茂る森の中へと入った。でこぼことした道をみんなでわいわい言いながら歩いていると、どこからか水の流れる心地よい音が聞こえた。
「おい。何か聞こえないか?」
 音に気が付いた一人がその音を頼りに歩くと、大きな川が見えた。流れも非常に穏やかだし子木々の中にあるだけあってか、木陰も随所にあり遊ぶには絶好の場所だった。
「よし諸君! 各自荷物を置いたらめいっぱい遊ぶのだーー!!」
 ぼくはさっそく大きな木の下へと走って荷物を置き、軽く準備体操を始めた。こういうのをしっかりやっておいて損はないからね。しっかり体を解し、さらさらと流れる川に手を入れてみた。心地よい清涼感が太陽からの熱波で熱くなった体を優しく冷やしてくれた。川の水を体にもかけ、体を慣らしてから川の中へと入るとまるで適温の水風呂に入ったかのような心地よさが全身を覆った。しばらくしてほかのギルドのメンバーも川へと入るとあちこちで楽しそうな悲鳴が聞こえた。
「つめたーい! でも、気持ちい~!」
「ほら、水かけしてあげるわ! それっ!」
「ひゃっ! やったわね! えいっ!」
 暑さから解放されたぼく達は、すっかり楽しくなり水の掛け合いはもちろん、少し深さのある所へ行っては潜水などをして楽しんだ。ぼくも潜水をしてみたくなり、大きく息を吸い込んでから川の中へと入ると、透き通った水の中で泳いでいる魚や気持ちよく揺れている川草などが拝めた。もっと奥に何かないかなと思い、ぼくは水を搔いてもう少し奥まで潜ると今までに感じたことのないくらい強い力に引っ張られた。あまりの急なできごとに驚いたぼくは肺の中にあった空気をごぼごぼと漏らした。やがて薄れていく意識の中、ふと上を見上げると日の光がどんどんと遠くなっていくのが見えた。

 ちゃぷちゃぷという水が遊んでいる音に気が付いたぼくは、ゆっくりと目を開けた。するとさっきまで透き通った川の中で遊んでいたはずだったのだけど、今はさらに純度の高い水の中で魚たちが気持ちよさそうに泳いでいた。不思議に思いつつも次に呼吸が苦しくなったぼくは勢いよく水面から顔を出し大きく息を吸い込んだ。危うく呼吸困難になるところだったと危機感を感じながらも、さっきまで雰囲気が違うことに気が付いた。
 さっきまでぼくがいたのは川の中。だけど、今は円形のプールのような場所だった。頭上には数多の星々が散りばめられていて、時々星々が囁くかのように瞬いていた。ぼくは状況を理解するのに苦しんでいると、背後から少し高い声が聞こえた。
「おや、客人かえ?」
 声の主はやや幼さの残る少女にみえた。白銀のような長い髪に蠱惑的に輝く黄色い瞳。そして何よりも目を引いたのは、その少女が持っている大きな水瓶だった。その水瓶からは止めどなく水が溢れ、その溢れた水は少女の周りを覆うように流れていた。流れた水からは小さなクラゲのような生物がひょこっと顔を出し、ぼくの顔をじーっと見ていた。
「うん? 見慣れん顔じゃな。まぁ、良い」
 ぼくは慌てて自己紹介をすると、少女はからからと笑った。まるで人と話すことを楽しんでいるかのように。
「ほう。ならば名乗ろう。妾はスゥ。十二星座の水瓶を司る皇子じゃ」
 スゥと名乗った少女は持っていた大きな水瓶をぼくの方へと持ってくると、ひと際輝く石のようなものが見えた。波を上と下で書いたような模様は白く輝くとスゥはうんと背伸びをし、水瓶を構えなおした。
「そなた、人の子じゃな。ここへ人の子が来るなんてどれだけ久しいかの。ほっほっほ」
 高らかに笑うスゥを後目に、ぼくはあることが気になって仕方がなかった。それは、スゥが持っている水瓶から流れる水に思い切り飛び込んでみたいという思いだった。
「ほう? 妾のこの水流で水浴びをしたいのか? あっはっは。面白いことを言うのだなぁ。ほぉれ、飛び込んでまいれ。存分に濡らしてやろうではないか」
 スゥは今か今かとぼくが飛び込むのを待っていて、ぼくはいよいよ勢いをつけて水流の中へと飛び込んだ。まるで水が生きているかのように曲がりくねったスライダーをつくり、ぼくはびしょびしょになりながらも段々と楽しくなってきて、大きな声で笑い始めた。ぼくの笑い声を聞いたスゥも気分がよくなってきたのか、水流の力を強めさらに激しい急流のような流れへと変化させぼくをさらにびしょびしょにさせてきた。
「ほれほれ。存分に遊ぶがよいぞ。それとも、妾に溺れたいのか?」
 悪戯っぽく笑いながら言うスゥ。その笑みは今まで退屈していた時間を埋めるかのようなそんな意味に思えたぼくは、楽しいとは別に少しだけ疑問に思った。
「ほれほれ。ぼーっとしてたらさらに濡れるぞ? あっはっは」
 水流が激流へと変化し、さらに休む間もなくぼくの顔に水を浴びせてくるようになりまるで荒れた川を生身で下っている気分だった。水しぶきが顔にかかりながら、ひやひやした気持ちで流されていると、突然大きな滝つぼに落とされたかのような衝撃を受けた。
「あっはっはっは! これは傑作だのぉ。いやあ、見事な落ちっぷりを見せてくれたことに感謝するぞ」
 スゥはひとしきり笑うと、水の中から飛び出した小さな使い魔を出し大きなタオルを持ってこいと指示。しばらくして使い魔はきれいに畳まれたタオルを持ってきてくれた。
「それは久々に楽しませてくれた礼じゃ。心して使うがよい」
 ふわふわのバスタオルに顔を埋め、ぼくは水滴をふき取っていく。やがて全身の水滴をふき取り終えたとき、ぼくは気になっていたことを聞いてみた。

 その模様には何か不思議な力があるのですか?

 するとスゥはけらけらと笑いながら人差し指を口元にあてながら言った。
「秘密を知りたいとな? 正直で可愛いやつめ。でもな、教えてはやれぬのだ」
 少し残念そうに表情を曇らせたスゥ。それならば無理強いはできない。ぼくは無理に話を出してしまったことに謝罪をすると、スゥはくすりと笑い片目をつむりながらぼくに言った。
「愛らしい妾に興味を持つのは至極当然じゃ。秘密を教えられん代わりにひとつ、教えてやろう」
 えへんと胸を張り、スゥは声を張った。

。そなたはこの事実のみを知っておればよい」
 一言一句、はっきりと聞こえるように言ったスゥはにひひと笑いながらぼくに確認した。ぼくは何度も頷き、理解をしたことを伝えるとスゥはぱっと笑い踊るような足取りで水瓶をひょいと持ち上げ、ぼくに向けた。
「また機会があったら話そうぞ。久しぶりに遊べたこと、感謝するぞ」
 そういうと、スゥは大きな水瓶から勢いよく水を噴射させるとぼくの体だけでなく意識をも飲み込んでいった。


「……い。おー……。おーい! 大丈夫か!」
 誰かがぼくの頬を叩いてる。ふわふわとした意識の中、ぼくはぺちぺちと叩かれている頬から痛みを感じると、徐々に視界がはっきりとしてきた。何人ものギルドメンバーがぼくを囲んでいるのが見えて、何人かは心配そうにぼくの顔を覗いていた。
「大丈夫? 急にいなくなったからびっくりしたわよ」
「あぁ……さっきそこで浮いてるのを見かけてな……いやぁ、ひやっとしたぜ」
 どうやらぼくは意識を失くし、水面に浮いていたらしい。その間、ぼくは別のどこかで誰かと遊んでいたような……。まだ頭がぼんやりしていてそれが実際に起こったことなのか夢なのかの区別もできていなかった。
「もう……心配させやがって」
「顔色もだいぶよくなってきたね。もう動ける?」
 ぼくはゆっくりと体を起こす。手を開いてみたり首を回してみたりとしてみるも、特に支障がないことを伝えると全員ほっとした様子だった。なんか心配かけてごめんなさい。
「いやいや。ちょっと心配しただけだからな。せっかく来たんだから、無理はするなよ」
 ぼくはうんと頷き、ギルドメンバーと浅い場所で遊ぶことにした。くるぶしまでの水位だけど、十分に楽しむことのできたぼくはこの依頼を出してくれたギルドメンバーに心の中で感謝を伝えた。
 日が少し傾き始めたころ、ぼく達はギルドに帰る準備をした。そしてギルドへ帰る道の途中、ぼくの頭の中では不思議な模様がぴかぴか光っている光景が離れなかった。その模様は……波……だったかな。必死に何か思い出そうとしてもそれ以上の答えは出なかった。

 サダル……メリク……

 無意識のうちに発した「サダルメリク」という言葉。どんな意味が込められているかわからないまま、ぼくは意識を再びこっち側へと戻した。
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