時間差味変グレープカクテル【魔】
文字数 1,688文字
「これより実地訓練を行う。しっかり鍛錬を積んで来い」
「「はいっ!」」
「……はい」
とあるキャンプ地にて威勢のいい声が響く中、蚊の鳴くような声で返事をする兵士がいた。その声と同じように今にも泣きだしそうな顔とは不釣り合いな双槍を背負っている青年─ハンク。元々戦闘は苦手なのだが、知り合いに無理やり連れてこられてしまった。逃げようにも逃げられない環境に、ハンクはあの時断ればよかったと嘆いている。
そして今日。ハンクの苦手な実地訓練の日。実地訓練では模擬戦闘から避けることはできないし、仮に逃げたら逃げたでその旨を報告され後で厳しい罰を受けさせられる。
「はぁ……嫌だなぁ」
鈍色の空に向かって溜息を吐くハンク。なんかこううまいこといかないかなぁなんて甘いことを考えながら周りと歩調を少しまた少しとずらしながら歩いていく。やがて前を歩くほかの兵士たちと距離が開いてきてしまい、少し焦ったのか駆け足で続こうとしたときだった。ハンクの視界の隅の方で何かが輝いたような気がし、足を止めた。
「なんだろう。何か光ったような気がしたけど……」
びくびくとした足取りで光った方へと向かうと、そこには仄かに光る物体があった。ハンクは恐る恐るその光の玉に手を伸ばしてみた。
「痛く……ない。それに……掴めない……」
掴もうとしてもその手は空を切るばかりで、光の玉を掴むことができないでいた。何度も光の玉を掴もうと挑むも掴めないとわかったハンクは、光の玉に背を向けほかの兵士に追いつこうとした。
「……なんだ?」
背後で何かが強烈に光った。振り返ると、それはさっき掴もうとして掴めなかった光の玉だった。そしてその光の玉は白く光っていたのだが、今は三つに分かれそれぞれ蒼、赤、翠色に輝いていた。
「この光は……さっきまで……うわっ!!」
三色の玉はハンクに向かっていくと、音もなくハンクの体の中へと消えていった。しばらくして、さっきまでハンクの腰元にはなかった三色のペンデュラムがきらりと輝いていた。
「これは……さっきの光の玉が……」
光るペンデュラムのうち、赤色に触れたハンクは体に小さな電流が走る感覚に襲われた。電流は体中を駆け巡ると、ハンクの内に秘められた闘争本能が目覚めた。
「へぇ……こりゃあいいや」
双槍を背中から抜き構えると、赤色の光が右手で持った槍に灯った。試しに一振りするとめらめらと燃え上がる炎となり、空を切った。さらに蒼色のペンデュラムに触れると冷気、翠色のペンデュラムに触れると風の力が付与されていた。
「こいつぁ楽しめそうだ」
ひとまず双槍をしまい、ほかの兵士たちと合流するためハンクは静かに地を蹴った。
怪しまれることなく合流に成功し、実地訓練へと赴くハンク。これはいい練習になりそうだと舌をぺろりと出しながら自分の出番を待った。しばらく待ってから自分の名前が呼ばれ、対戦相手と対峙するとすぐに双槍を構えた。そして気づかれないようペンデュラムに触れ、対象の力を槍に付与してから相手に向かって突進した。結果は言うまでもなくハンクの圧勝。次の対戦相手にも怯まず戦いなんと全戦全勝という結果を残した。その結果を上層部に報告をすると、信じられないという顔でハンクを見ていた。それもそうだろう。今まで戦いたくないと言っていた人物が全戦全勝したのだから。何かあるとは思うが、その確たる何かがわからない以上は結果を評価せざるを得ない。
上層部の評価は戦闘において、先陣を切り敵軍を分断させるという位置になった。これは長年兵士を務めていても誰もやりたがらない位置で有名だった。それをハンクに任せるというのには……。しかし、当の本人からすればそれはどうでもよくて、今はとにかく暴れたくてうずうずしているといった様子だった。
「いいねぇ。おれがひと暴れしてやるよ。この力があればおれはいくらでも戦える」
まるで昨日までとは別人になったハンク。それはたった一つの光に触れたことから始まった。その力は性格までも変えてしまうものなのだろうか。今のハンクにその質問をしても、まともな答えは返ってこないような気がした。
「「はいっ!」」
「……はい」
とあるキャンプ地にて威勢のいい声が響く中、蚊の鳴くような声で返事をする兵士がいた。その声と同じように今にも泣きだしそうな顔とは不釣り合いな双槍を背負っている青年─ハンク。元々戦闘は苦手なのだが、知り合いに無理やり連れてこられてしまった。逃げようにも逃げられない環境に、ハンクはあの時断ればよかったと嘆いている。
そして今日。ハンクの苦手な実地訓練の日。実地訓練では模擬戦闘から避けることはできないし、仮に逃げたら逃げたでその旨を報告され後で厳しい罰を受けさせられる。
「はぁ……嫌だなぁ」
鈍色の空に向かって溜息を吐くハンク。なんかこううまいこといかないかなぁなんて甘いことを考えながら周りと歩調を少しまた少しとずらしながら歩いていく。やがて前を歩くほかの兵士たちと距離が開いてきてしまい、少し焦ったのか駆け足で続こうとしたときだった。ハンクの視界の隅の方で何かが輝いたような気がし、足を止めた。
「なんだろう。何か光ったような気がしたけど……」
びくびくとした足取りで光った方へと向かうと、そこには仄かに光る物体があった。ハンクは恐る恐るその光の玉に手を伸ばしてみた。
「痛く……ない。それに……掴めない……」
掴もうとしてもその手は空を切るばかりで、光の玉を掴むことができないでいた。何度も光の玉を掴もうと挑むも掴めないとわかったハンクは、光の玉に背を向けほかの兵士に追いつこうとした。
「……なんだ?」
背後で何かが強烈に光った。振り返ると、それはさっき掴もうとして掴めなかった光の玉だった。そしてその光の玉は白く光っていたのだが、今は三つに分かれそれぞれ蒼、赤、翠色に輝いていた。
「この光は……さっきまで……うわっ!!」
三色の玉はハンクに向かっていくと、音もなくハンクの体の中へと消えていった。しばらくして、さっきまでハンクの腰元にはなかった三色のペンデュラムがきらりと輝いていた。
「これは……さっきの光の玉が……」
光るペンデュラムのうち、赤色に触れたハンクは体に小さな電流が走る感覚に襲われた。電流は体中を駆け巡ると、ハンクの内に秘められた闘争本能が目覚めた。
「へぇ……こりゃあいいや」
双槍を背中から抜き構えると、赤色の光が右手で持った槍に灯った。試しに一振りするとめらめらと燃え上がる炎となり、空を切った。さらに蒼色のペンデュラムに触れると冷気、翠色のペンデュラムに触れると風の力が付与されていた。
「こいつぁ楽しめそうだ」
ひとまず双槍をしまい、ほかの兵士たちと合流するためハンクは静かに地を蹴った。
怪しまれることなく合流に成功し、実地訓練へと赴くハンク。これはいい練習になりそうだと舌をぺろりと出しながら自分の出番を待った。しばらく待ってから自分の名前が呼ばれ、対戦相手と対峙するとすぐに双槍を構えた。そして気づかれないようペンデュラムに触れ、対象の力を槍に付与してから相手に向かって突進した。結果は言うまでもなくハンクの圧勝。次の対戦相手にも怯まず戦いなんと全戦全勝という結果を残した。その結果を上層部に報告をすると、信じられないという顔でハンクを見ていた。それもそうだろう。今まで戦いたくないと言っていた人物が全戦全勝したのだから。何かあるとは思うが、その確たる何かがわからない以上は結果を評価せざるを得ない。
上層部の評価は戦闘において、先陣を切り敵軍を分断させるという位置になった。これは長年兵士を務めていても誰もやりたがらない位置で有名だった。それをハンクに任せるというのには……。しかし、当の本人からすればそれはどうでもよくて、今はとにかく暴れたくてうずうずしているといった様子だった。
「いいねぇ。おれがひと暴れしてやるよ。この力があればおれはいくらでも戦える」
まるで昨日までとは別人になったハンク。それはたった一つの光に触れたことから始まった。その力は性格までも変えてしまうものなのだろうか。今のハンクにその質問をしても、まともな答えは返ってこないような気がした。