甘酸っぱキウイとジューシーオレンジのムース【神】

文字数 2,316文字

「もう……アリババったら……どこへ行ったのかしら……見つけたらタダじゃおかないんだから」
 鬱蒼とした森の中を歩く少女。異国情緒ある飾りがついたヴェールから覗くサファイアブルーの髪に、やや露出のある服装の腰には護身用のサーベルを携えている。くっきりとした瞳から感じられるエネルギーは見るものを魅了させる。
 辺りを見回しても目的の人物が見当たらないと分かった少女は、がっくりと肩を落とし項垂れた。少女─モルジアナは王宮から逃げ出したアリババという人物を探して旅を続けているのだが、手掛かりが少なく、ちょっとした情報があればあっちへこっちへとを繰り返すうちに日が暮れているということは日常茶飯事だった。そして、今日もそれをしているとわかるとモルジアナの気持ちはまた少し下降した。
「はぁ……もう、アリババったら……なんで逃げ出しちゃったのよ……理由も言わないで出ていくなんて……これはもう、捕まえたら白状させなきゃ気が済まないわ」
 アリババへのお仕置きが決まったモルジアナは、それを励みとしてアリババ探しを再開させた。しかし、今あちこちを探そうにも日はとっくに暮れているし、無暗やたらと散策するのはよくないと考え直し足を止めた。
「うーん……どうしよう。このままじゃどうにもできないわ……」
 困り果てたモルジアナが頭を抱えていると、遠くの方で何かが揺らめているのが見えた。今にも消えてしまいそうなその揺らめきに誘われるように走ると、そこには一人の少女が座っていた。その少女は遠くで見えていた揺らめきをただ静かにじっと見つめて、何かを考えているようだった。モルジアナがゆっくりと歩いて声をかけようとしたとき、モルジアナの足首にあるアンクレットが鳴り、その少女が音に気付き振り返った。
「あっ!! ご、ごめん。脅かすつもりじゃなかったんだ……」
「いいえ。わたしの方こそ気が付かなくてごめんなさい」
 その少女は深海に佇むサンゴのような濃いブルーの髪に褐色の肌、額から生える二本の角、腰からは赤い尾を生やしていた。暖色の衣装に身をまとい、足元にはモルジアナとは形状は違うがアンクレットを着けていた。
「わたしはルイーテ。おつかいを頼まれたのだけど、道に迷ってしまって……ここで暖をとっていました。あなたもご一緒にどうですか?」
 ルイーテと名乗る少女が手招きをすると、モルジアナは柔らかく笑い隣に座った。ぱちぱちと音を立てて燃える様子をただじっと見つめるモルジアナに、ルイーテが声を掛けた。
「あなた……もしかして、踊り子なのかしら……?」
 ふいに声を掛けられ、モルジアナは戸惑ったものの、すぐにそうだと返事をするとルイーテの表情がぱっと明るくなった。ルイーテはすっくと立ちあがり素足でリズムを取ると感じるままに体を動かした。
「あなたもご一緒に踊りませんか?」
「あ……あたし。で、でも……そんな器用に踊れない……かも」
「大丈夫です。あなたの中にある音楽を感じたままに踊れば楽しいですよ。えっと……」
「自己紹介がまだでしたね。わたしはモルジアナ。迷い人を探してたら……えへへ」
「モルジアナさん。では、最初はわたしが踊りますね」
 ルイーテが手拍子しながら足踏みをした。軽快に弾ける音と金属が空を踊る音が混じり、それだけで心が弾む音色へと変わった。緩やかなステップから始まると、段々と激しくなる踊りへと変貌し見るだけで心が元気になっていくような気がしたモルジアナは、それに負けないという気持ちを込めて今、自分が踊れる最高の舞を披露した。
「わぁ……モルジアナさんの舞……かっこいい……」
「そういうルイーテさんこそ、情熱的で元気になります!」
 モルジアナはサーベルを持ち、激しめの剣舞を披露した。それを見て元気を受け取ったルイーテが柔らかくゆったりとしたステップを披露し、今度はそれを見たモルジアナが活気づき更に激しい剣舞を披露。それを繰り返していくうちに、二人は笑みを浮かべながら踊り続けた。

 二人の踊りに終止符を打ったのは、雲間から刺す一筋の光だった。真っすぐに伸びた光は二人の足元を照らすと、二人の舞はぴたりと止まり顔を見合わせた後に笑いあった。
「はぁ……楽しかったです……」
「あたしも……こんなにたくさん踊ったの久しぶり……」
 二人の顔には疲労感はなく、むしろ清々しさを感じる程だった。互いの踊りを認め合い、そして踊りあう。今までにない経験をした二人は満足そうに握手をした。
「ここで出会えたのも何かの縁ですね。またモルジアナさんと踊りたいです」
「あたしもルイーテさんと踊りたいです。今度は観客付きで……ね」
「うふふ。そうですね。これを二人だけのものにするには勿体ないですものね」
「きっとみんな笑顔になってくれるよね。そのためなら、あたしは踊ります」
「わたしだって。二人でみんなに元気を届けましょう」
「賛成! じゃあ、今度会ったときはとびっきりの舞を披露しましょ!」
「ええ」
 名残惜しい気持ちを押し殺しながら、二人はそれぞれの目的を果たすため笑顔で別れた。今度会うときはきっと素敵なことがあるに違いないと信じて、アリババ捜索の続きへと向かった。苦労の絶えないけど、今はアリババが行方不明になっているということにちょっとだけ感謝をした。なぜなら、こうしてアリババを探している最中に素敵な出会いがあったのだから。
「アリババーっ! いい加減に出てきなさーい!!」
 嬉しさからくる高揚感に任せ、モルジアナは声の限り探し人であるアリババの名を叫んだ。アリババを連れて帰って、今度はきれいさっぱり何もない状態でルイーテとの再会を楽しみに、モルジアナは風の吹くまま走り出した。
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