りゅうじんのきみしぐれ【竜】

文字数 3,328文字

 うんでぃーねの言う「わるいひと」が住んでいるといわれる場所へ向かったぼくは、小さな点の集まったキャラクターをやっつけながら町へと進んでいた。「でっき」を選んで駒を選んで展開するのは、ぼくの世界でも似ていて手順さえ慣れれば造作もないくらいまでに馴染んできた。もうすぐ町へ到着というとき、近くの茂みから何かが動く音がして、ぼくはすぐに立ち止まり「でっき」を選んでいた。がさがさと音を出しながら黒い影がこちらへ向かってきて、やがてその黒い影がはっきりするとその正体にぼくは思わず声が出た。
「が がとう?」
 ぼくの発言が窓の中に表示されると、小さな点で描かれたがとうは「うむ」と頷いた。確か、さっきやっつけたと思ったのだけど……。ぼくとうんでぃーねが顔を見合わせていると、がとうは刀を地面に置き、頭を深く下げた。
「こたびのぶれい まことにもうしわけない。 もし、ゆるされるのならば、このがとう。おんかたのかたなとなりましょう」
 
 がとうがなかまになりたそうにしている なかまにしますか?

▷はい
 いいえ

 もちろんとばかりにぼくが頷くと、がとうは地面に額を擦り付けながら何度も「かたじけない」といい、顔を上げ刀を取りまた深々と頭を下げた。
「このがとう。かならずや おやくにたちましょう」

 がとう がなかまにくわわった

 がとうはうんでぃーねの後ろにつき、パーティに参加すると「いざ まいろう」と声をあげた。さっきは敵として出てきたけど、今はなんでだろう、こんなにも心強いものなのかと感じながら町の入り口をくぐった。
 町はとってものどかで、あちこちでは畑が点在していて麗らかな気候の下、作物はすくすくと育っていた。子供たちも子犬たちと一緒に町中をかけっこであそんでいたりと、さっきまで戦っていたのが嘘のように感じられた。だけど、この先にうんでぃーの言う「わるいひと」が住んでいるという場所があるんだと思うと、にわかに信じられなかった。何か情報がないかと思い、ぼくが「INN」と書かれた建物に入ると、白髭をたっぷりと蓄えたおじいさんがいた。ぼくは「はなす」にカーソルを合わせ念じると、おじいさんはにこっと笑いながら窓に文字を送ってくれた。
「たびのおかた よくきなさった ひとばん 15ごーるど だよ とまっていくかい」

  はい
 ▷いいえ

 ぼくはまだ町のなかを見てみたいと思い、おじいさんにそう告げると「いつでもおいで」と柔和な笑顔でぼくたちを送ってくれた。ぼくは「またきます」という言葉を発したかったけど、どうも口がうまく動いてくれなくて発することができなかった。なんとももどかしい気持ちを抱えながら、ぼくたちは町の人に聞き込みを行った。どうやらここ数日前に、黒い雲がこの辺りを通過したのを見た人がいた。その人に更に聞き込むと、生ぬるい風が吹いたと思ったら、どこからか犬の遠吠えのようなものが聞こえたそう。その声を聴いた町の人は全身に悪寒が走り、すぐ自宅へ避難したそう。それからというもの、町の外では野生の動物たちが異様に活動している姿が目撃されている。
「くろいくもと うんでぃーねどののいう わるいひと なにかかんけいがあるのだろうか」
「わたしも きがどうてんしていて くわしいことは あまり おぼえていません すみません」
 もしかしたら関係があるのかもしれないと思ったぼくは、町の出口から続く道を進んでみようと提案するとうんでぃーねは不安そうに杖を握りながら、がとうは決意に満ちた顔で「うん」と頷いた。……と、その前に今日はしっかり体を休めて先に進むのは明日にしようというと、うんでぃーねは緊張感が抜けたのかほっとした顔をしていた。がとうは腕を組みながら「そうしよう」と頷いた。必要な物を調達もしたいし、ぼくは道具屋で必要だと思うものをいくつか購入し終えると、宿屋でおじいちゃんに話しかけ「はい」を選んだ。ベッドが並んだ部屋に案内されるとおじいちゃんは静かに部屋を出て行った。ぼくは枕に顔を埋めると、洗い立ての寝具の香りにほっこりしながら明日に備え、早めに寝ることにした。

  

 こっけこっこー


 鶏の鳴き声で目を覚ます朝が本当にあるだなんて……。しっかりはっきり太い鳴き声のおかげでぱっちり目が覚めたぼくは、ベッドから体を起こし着替えを済ませ顔を洗った。ついでといってはなんだけど、起こしてくれたたくさんの点でできた鶏に起こしてくれたお礼を済ませると、うんでぃーねとがとうが支度を済ませて宿屋から出ているのを見つけ、ぼくは慌てて部屋に残った荷物をかっさらい宿屋のおじいちゃんに頭を下げると「いってらっしゃい」と笑顔で見送ってくれた。
「おはようございます きょうも いいてんきですね」
「じゅんびは ぬかりないか」
 ぼくはうんと頷くと、期待と不安を抱きながら町の出口方面へと足を進めた。


 町を出てしばらく、辺りが段々と暗くなっていくのがわかった。というより、息苦しくなってきているような気がしたぼくは、二人に無理をしないように注意を促した。こんなにも息苦しいなんて思ってなかったぼくは、思わず膝をついてしまいそうなほどに苦しくなった。
「だいじょうぶですか いやしのきりよ」
 うんでぃーねが杖に祈りを込め、ぼくに振りかざした。すると優しい霧がぼくを包み込むとぽかぽかと温かくなった。うんでぃーねの得意技「いやしのきり」を使うと、ぼくの体はほんの少しだけ軽くなった。
「ほんのすこしですが おやくにたててればとおもいまして」
 うんでぃーねのおかげで苦しさが和らいだぼくは、うんでぃーねにお礼を言いすぐに足を動かした。やがて洞窟のような入口が見えると、その入り口には誰かが立っていた。これもどこかで見たことがあるような出で立ちだった。銀色の髪に刃物のような鋭い視線、鎧の上からでもわかる鍛え上げられた強靭な肉体に巨大な剣を背負っている戦士─レグス。それと、隣には真っ赤な鱗に覆われた竜─ファイアドレイクがいた。どちらもうんでぃーねやがとうと同じように、たくさんの点で描かれた姿をしていた。
「あのいりぐちのさきに なにか あるのでしょうか」
「あのふたりは あたりを けいかいしています そのかのうせいは たかいかと」
 あの洞窟の奥に何かある。ぼくもそんな気がしてきた。もしそうだとしたら、一体何があるのか……ぼくの胸が上下に激しく動くと、うんでぃーねとがとうの目線がぼくとぴったり合う。
「だいじょうぶです いまは ひとりじゃありません」
「ぜんりょくで いかせてもらう」
 二人が前に出ると、レグスとファイアドレイクは戦意をむき出しにし襲い掛かってきた。

 れぐす ふぁいあどれいく があらわれた

「もえつきろ」

ふぁいあどれいく は くちからほのおをはいた

「まもってみせます」

うんでぃーね は いのりをつえにこめた やわらかいひかりがみんなをつつんだ

 うんでぃーねの祈りは、ぼくたちを優しく包むとふぁいあどれいくの吐いた炎を幾分軽減してくれた。けれど、それでも焼かれる感覚だけは防げなかった。

「かげんは にがてなんだよ」

れぐす は けんをふりおろした やわらかいひかりがみんなをまもった

 続けてれぐすの剣撃がぼくたちを襲ったけど、これもうんでぃーねの祈りで幾分防ぐことができた。これはぼくも「でっき」から守ってくれるキャラクターであるザフキエル(ここでは『ざふきえる』)を選んでいたから大きな被害は出なかった。ざふきえるの大きな盾がぼくたちを守ってくれている後ろでは、がとうが刀を抜いていていつでも切りかかることができるよう構えていた。そして盾の効力が消えるタイミングで、がとうは二人に切りかかった。

「りゅうのやいば だてではないぞ」

 がとうが刀を横に一閃。すると、れぐすとふぁいあどれいくは大きくのけぞった。最初に消えたのはふぁいあどれいくで、次いでれぐすが消えた。だけど、消える前にれぐすが気になることを言いながら消えていった。

「れんごくの おうに えいこう あれ!」

 れぐすの言う、煉獄の王とは一体誰を指すのか……。勝利したぼくたちの胸の中はもやもやとしたものがぐるぐると渦巻いていた。
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