めらめらあっぷるきゃんでぃ【魔】
文字数 2,804文字
洞窟の中に足を踏み入れた瞬間、感じたのは凄まじい熱気だった。目の周りに付着している水分が一気に蒸発してしまいそうなそんな熱気に怯みながら、一歩一歩確実に進んでいくと一際広い円形の舞台のような場所に人影があった。青紫色の肌に自信に満ちた笑顔、爪は鉤のように鋭く尖り、その先からは荒々しい炎が吹き上がっていた。その炎は彼女の足元にも広がっておりまるで炎までもが好戦的な印象を与えていた。……まさかとは思ったけど、そのまさかだった。その見知った人物もたくさんの点で描かれていて、移動するときはきれいな直角移動をしていた。
「まさか あれは あどらめれく」
「ぬう これは やっかいなあいてですな」
地獄の業火を統べるもの─アドラメレクだった。まさか彼女がうんでぃーねのいう「わるいもの」だったというのか……いや、彼女の性格からしたら否定はできないかもしれないけど。と、とにかくまずはアドラメレクに話をしてみることからしてみよう。円形の舞台に進む度に皮膚を焼く音に耳が痛いけど、ぼくは事実を確認するためにアドラメレクに歩み寄った。やがてぼくたちの存在に気が付いたアドラメレクは、ぼくたちを見るや否や高らかに笑いながら拳を突き出した。
「じごくのごうかをすべるもの さいかのほのお あどらめれく けんざん」
さいかのほのお あどらめれく があらわれた
握った拳から勢いよく炎が噴き出し、辺り一帯灼熱地獄と変化させた。あまりの熱気に目も開けることがないぼくは、両手で顔を覆うのが精いっぱいだった。でっきになにか適任なキャラはいないか探していると、光の粒を輝かせながら一人の天使が現れた。宙を舞いながら光をまき散らし、ピンク色のドレープスカートをふわりとなびかせたアラエル(あらえる)だった。あらえるはぼくたちに一礼をしてからあどらめれくに向き直ると、指先で羽を摘まむとふうと息を吹きかけた。すると羽から細かい光の粒子が現れ、やがて薄い光の膜へと変化した。薄い薄い氷のような膜の透明度はすさまじく、まるでそこに何もないと思えるほどの透明感だった。その膜を見たあどらめれくは「はっ」と鼻で笑いながら拳を振り上げると、そのまま勢いよく振り下ろした。ごうと空気を焼く音とともに岩石程の大きな火球がぼくたちに向かって飛んできた。
「まもりのひかりよ」
うんでぃーねが祈りを込めると、あらえるが展開した膜に覆いかぶさるように厚い防御を展開させた。火球は目の前で霧散していったけど、防御膜を通り抜けてくる熱気だけはどうにもできず、思わず顔を伏せていた。
「なかなか やるわね」
あどらめれくが拳を振り上げると、ぶわりと熱気が立ち込めた。そしてその熱気は段々と大きくなっていきながら、凄まじい力を蓄えていった。頃合いだと思ったあどらめれくは、拳を円形の舞台に振り下ろすと、舞台下でごぷごぷと音を立てていた真っ赤な液体が打ち上げられ、ぼくたちめがけ落ちてきた。凄まじい熱気にあてられたぼくたちは体の水分を奪われ、このままでは危ないと必死にでっきをまさぐり、一枚展開した。すると目の前に現れたのは巨大な噴水だった。あれ、噴水の駒ってあったっけと首を傾げていると遠くから間延びした女性の声が聞こえた。
「まにあってよかったですー いきますよー かわいだいちに めぐみのあめをー」
水の女神─ユービア(ゆーびあ)だった。彼女が元気よく声をあげると、噴水から勢いよく水が噴射された。噴射された水は打ち上げられた真っ赤な液体を次々と鎮火していき、無害化させていった。それと同時に、ぼくたちが失った水分を優しく補ってくれた。ぼくはすぐにでっきから一枚選び展開すると、百点満点の笑顔を浮かべながら禍々しいトケ付き鉄球を持った少女─クラフィール(くらふぃーる)が現れた。くらふぃーるは天使のような悪魔の言葉を言いながら鉄球を振りかぶった。
「みんななかよく じごくへいけや」
重く体重ののった禍々しい鉄球はあどらめれくにヒットすると、放物線を描きながら飛んで行った。くらふぃーるは体制を立て直す隙を与えないうちにすぐさま接近し、毒々しい笑顔をあどらめれくに向けて放った。
「そのすき にがさないぞ」
まるでボールのように飛んで行ったあどらめれくは、重力に引っ張られ円形の舞台に叩きつけられた。ぼくはあどらめれくが落ちていった場所に近付くと、あどらめれくは弱々しい声で言った。
「ほら やっちゃいなさいよ」
何のことかわからないでいると、あどらめれくは声を荒げながら「とどめよ と ど め」と言った。その答えにぼくは首を振ると、横でうんでぃーねが杖に祈りを込め、あどらめれくに振りかざした。まばゆい光はやがて柔らかい霧となり、あどらめれくを包むと徐々に傷口を塞いでいきあっという間に回復させてしまった。
「わたしは なぜ ひとりじめしようとしたのか りゆうが しりたいだけなのです おしえていただけませんか」
うんでぃーねはどうにか理由を聞こうと真剣な眼差しを向けていると、あどらめれくは半ば自棄気味に頭を掻きながら話した。
「あのいずみ きずを なおすこうかあるっていうじゃない それなら たたかっても きずをなおせれば おもうぞんぶん からだをうごかせるってことじゃない」
つまり、あどらめれくが泉を独占しようとした理由は満足がいくまで戦っていたいというものだった。その理由にぼくたちは顔を見合わせてくすくす笑っていると、あどらめれくは「だー」といいながらぷりぷり怒り出した。
「いずみをひとりじめするのはだめですが おわけすることでしたら かまいませんよ ひつようなら いつでも いってくださいね」
「え わけてくれるの らっきー あんた いいやつね」
こうしてうんでぃーねが泉の水を分けるということで決着が着くと、ぼくの体が光に包まれ始めた。これは……お別れの合図なのかな。
「ああ ゆうしゃさま たびだたてれしまうのですね ですが ゆうしゃさまは いつでも わたしたちの ゆうしゃさまです また おあいできるときを たのしみにしています」
「また あいまみえん」
「たのしかったわよ また たたかってあげても いいわよ」
ぼくは三人に手を振ると、光はぼくの全身を包み込んだ。光に包まれたぼくの意識は何かに吸い込まれるように遠くなっていった。
瞼の上を何かがちくちくと刺す感覚に、ぼくはゆっくりと目を開けた。目が覚めるとそこは、たくさんの点で作られた世界……ではなく、ぼくが暮らしている世界だった。あれは……夢だったのかな……でも夢にしては壮大だったような……。戻ってきたんだと安心感もありながら、どこか寂しい思いも混じる不思議な気持ちを抱いていると、枕元から何かが落ちた音が聞こえた。何かと思いぼくはそれを拾い上げると、それはたくさんの点で出来た水の精霊ウンディーネだった。
「まさか あれは あどらめれく」
「ぬう これは やっかいなあいてですな」
地獄の業火を統べるもの─アドラメレクだった。まさか彼女がうんでぃーねのいう「わるいもの」だったというのか……いや、彼女の性格からしたら否定はできないかもしれないけど。と、とにかくまずはアドラメレクに話をしてみることからしてみよう。円形の舞台に進む度に皮膚を焼く音に耳が痛いけど、ぼくは事実を確認するためにアドラメレクに歩み寄った。やがてぼくたちの存在に気が付いたアドラメレクは、ぼくたちを見るや否や高らかに笑いながら拳を突き出した。
「じごくのごうかをすべるもの さいかのほのお あどらめれく けんざん」
さいかのほのお あどらめれく があらわれた
握った拳から勢いよく炎が噴き出し、辺り一帯灼熱地獄と変化させた。あまりの熱気に目も開けることがないぼくは、両手で顔を覆うのが精いっぱいだった。でっきになにか適任なキャラはいないか探していると、光の粒を輝かせながら一人の天使が現れた。宙を舞いながら光をまき散らし、ピンク色のドレープスカートをふわりとなびかせたアラエル(あらえる)だった。あらえるはぼくたちに一礼をしてからあどらめれくに向き直ると、指先で羽を摘まむとふうと息を吹きかけた。すると羽から細かい光の粒子が現れ、やがて薄い光の膜へと変化した。薄い薄い氷のような膜の透明度はすさまじく、まるでそこに何もないと思えるほどの透明感だった。その膜を見たあどらめれくは「はっ」と鼻で笑いながら拳を振り上げると、そのまま勢いよく振り下ろした。ごうと空気を焼く音とともに岩石程の大きな火球がぼくたちに向かって飛んできた。
「まもりのひかりよ」
うんでぃーねが祈りを込めると、あらえるが展開した膜に覆いかぶさるように厚い防御を展開させた。火球は目の前で霧散していったけど、防御膜を通り抜けてくる熱気だけはどうにもできず、思わず顔を伏せていた。
「なかなか やるわね」
あどらめれくが拳を振り上げると、ぶわりと熱気が立ち込めた。そしてその熱気は段々と大きくなっていきながら、凄まじい力を蓄えていった。頃合いだと思ったあどらめれくは、拳を円形の舞台に振り下ろすと、舞台下でごぷごぷと音を立てていた真っ赤な液体が打ち上げられ、ぼくたちめがけ落ちてきた。凄まじい熱気にあてられたぼくたちは体の水分を奪われ、このままでは危ないと必死にでっきをまさぐり、一枚展開した。すると目の前に現れたのは巨大な噴水だった。あれ、噴水の駒ってあったっけと首を傾げていると遠くから間延びした女性の声が聞こえた。
「まにあってよかったですー いきますよー かわいだいちに めぐみのあめをー」
水の女神─ユービア(ゆーびあ)だった。彼女が元気よく声をあげると、噴水から勢いよく水が噴射された。噴射された水は打ち上げられた真っ赤な液体を次々と鎮火していき、無害化させていった。それと同時に、ぼくたちが失った水分を優しく補ってくれた。ぼくはすぐにでっきから一枚選び展開すると、百点満点の笑顔を浮かべながら禍々しいトケ付き鉄球を持った少女─クラフィール(くらふぃーる)が現れた。くらふぃーるは天使のような悪魔の言葉を言いながら鉄球を振りかぶった。
「みんななかよく じごくへいけや」
重く体重ののった禍々しい鉄球はあどらめれくにヒットすると、放物線を描きながら飛んで行った。くらふぃーるは体制を立て直す隙を与えないうちにすぐさま接近し、毒々しい笑顔をあどらめれくに向けて放った。
「そのすき にがさないぞ」
まるでボールのように飛んで行ったあどらめれくは、重力に引っ張られ円形の舞台に叩きつけられた。ぼくはあどらめれくが落ちていった場所に近付くと、あどらめれくは弱々しい声で言った。
「ほら やっちゃいなさいよ」
何のことかわからないでいると、あどらめれくは声を荒げながら「とどめよ と ど め」と言った。その答えにぼくは首を振ると、横でうんでぃーねが杖に祈りを込め、あどらめれくに振りかざした。まばゆい光はやがて柔らかい霧となり、あどらめれくを包むと徐々に傷口を塞いでいきあっという間に回復させてしまった。
「わたしは なぜ ひとりじめしようとしたのか りゆうが しりたいだけなのです おしえていただけませんか」
うんでぃーねはどうにか理由を聞こうと真剣な眼差しを向けていると、あどらめれくは半ば自棄気味に頭を掻きながら話した。
「あのいずみ きずを なおすこうかあるっていうじゃない それなら たたかっても きずをなおせれば おもうぞんぶん からだをうごかせるってことじゃない」
つまり、あどらめれくが泉を独占しようとした理由は満足がいくまで戦っていたいというものだった。その理由にぼくたちは顔を見合わせてくすくす笑っていると、あどらめれくは「だー」といいながらぷりぷり怒り出した。
「いずみをひとりじめするのはだめですが おわけすることでしたら かまいませんよ ひつようなら いつでも いってくださいね」
「え わけてくれるの らっきー あんた いいやつね」
こうしてうんでぃーねが泉の水を分けるということで決着が着くと、ぼくの体が光に包まれ始めた。これは……お別れの合図なのかな。
「ああ ゆうしゃさま たびだたてれしまうのですね ですが ゆうしゃさまは いつでも わたしたちの ゆうしゃさまです また おあいできるときを たのしみにしています」
「また あいまみえん」
「たのしかったわよ また たたかってあげても いいわよ」
ぼくは三人に手を振ると、光はぼくの全身を包み込んだ。光に包まれたぼくの意識は何かに吸い込まれるように遠くなっていった。
瞼の上を何かがちくちくと刺す感覚に、ぼくはゆっくりと目を開けた。目が覚めるとそこは、たくさんの点で作られた世界……ではなく、ぼくが暮らしている世界だった。あれは……夢だったのかな……でも夢にしては壮大だったような……。戻ってきたんだと安心感もありながら、どこか寂しい思いも混じる不思議な気持ちを抱いていると、枕元から何かが落ちた音が聞こえた。何かと思いぼくはそれを拾い上げると、それはたくさんの点で出来た水の精霊ウンディーネだった。