ぷかぷかロックチョココーヒー【神】

文字数 1,408文字

「うーん……えーっと……えいっ」
 ごつごつとした岩山の合間からなにやら女性の声が聞こえる。悩んでは掛け声、悩んでは掛け声を繰り返ししまいには落胆の声を上げるというところまでが一緒についてくる。それでもめげずに女性は何度も何度も何かを作ろうと頑張っていた。
 女性の名前はペトラ。岩石の女神として君臨し、日夜岩山に訪れる人間たちをやさしく見守っている。今日も今日とて何人か訪れた人間たちに笑顔で対応するも、普通の人間に彼女の姿は見えないので素通りをすることになる。それでもめげずに彼女は笑顔で挨拶を続けている。
 人間が行きかっていた日中から一転、空にはたくさんの宝石が散りばめられた夜。ペトラは誰もないと分かっていても、辺りをきょろきょろと見回し人がいないことを確認してからある作業に取り掛かった。
「さぁて。今日こそは……いくわよ」
 ペトラは手近にあった岩石を手に取り、なにやらむにむにと動かし始めた。人間にとって固い岩石もペトラにかかれば紙粘土と等しく自分の思い通りに形成することができる。可愛くしたりかっこよくしたりもペトラの指先一つで決まる。数十分の格闘の末、ペトラはふぅと息をつき出来上がった

をじっくりと見つめた。
「うーん。ここをもう少しこうすれば……どうかしら……」
 もう一度むにむにと動かし、自分の思い描いたものへと形成していくのだが、実際はそううまくはいかない。何度も形成しては直し形成しては直しを繰り返しているうちに最初思い描いていたものとはかけ離れたものになってしまい、ペトラは深いため息を吐いた。
「うーん……わたしにもっと創作力があればなあ……」
 仕切り直しとばかりに岩石をむにむにし、最初の状態に戻し再度挑戦。今度は頭の中で細かく描写をしながらそれに指を連動させるよう意識をしてとりかかった。すると、さっきより可愛くできたことが嬉しかったのか、ペトラは薄く笑みを零した。
「あぁ……よかった。可愛くできたわ」
 まんまるの岩石に小さな手足、小さな目は小石を加工して付けたものをはめ込みペトラは小さく息を吹きかけた。すると、そのまんまるの岩石は意思を持ったかのようにぴょんぴょんと跳ね回った。
「あら可愛らしい。うふふ。初めまして」
 よほど嬉しいのか、まんまるの岩石はペトラの足元をぐるぐると回り何かを表しているようだった。その気持ちが伝わったのか、ペトラは同じ大きさの岩石を集め同じように加工を始めた。全員が同じ顔だとわかりにくいと思ったペトラは、ほんの少しだけ変えながら作業に没頭していった。一人は片目が赤色、もう一人は片目が緑色など特徴が分かるように加工をして順番に息を吹きかけていくと、最初に生み出されたまんまるの岩石と同じように意思を持ち動き出した。赤目の岩石は、最初に生み出された岩石に近づくとまるで挨拶をしているかのように首を動かしていた。緑目の岩石はというと少しのんびり屋さんのようで、挨拶はそこそこに大の字になって空に浮かぶ宝石を眺めていた。
「あらあら。みんな個性があっていいわね。わたしももう少し頑張ったらもっと可愛くできるかしら……?」
 生まれた岩石たちを見たペトラの目は、まるで保護者のように慈愛に満ちていた。この子たちが寂しい思いをしないよう、今度はどんな子たちを創作しようかしらと考えているとなんだか楽しくなってきたペトラは三人の子たちを抱えながら空に輝く宝石を見つめていた。
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