ころころスコーン ストロベリーとブルーベリーソース添え【神&魔】

文字数 2,992文字

「……ったく。わたしのが先だっつってんのに、あのオヤジ人の話全っ然聞かねぇの」
 手にした懸賞金の入った袋を握りつぶしながら出てきた少女。カスタードクリームのようなふわふわのロングヘアーにうさ耳のフードを被り、ホイップクリームホワイトとストロベリーレッドが眩しいふりふりのスカート。そして背中には禍々しいトゲがいくつもついた巨大な鉄球を背負っていた。少女─クラフィールはその可愛らしい装いからは想像もできないくらい強く、仕事として向かっている組合の中では一番の戦闘力を誇っている。その可愛らしい装いと仕草で賞金首を怯ませてから……というのがいつもの戦法らしい。大抵の賞金首であればクラフィールにかかればものの数秒で終わるものばかりだった。そして今回、たまたま同じ依頼を受けていた他の組合員がいて、タッチの差で他の人が依頼を完了させていて、貰える懸賞金の半分以下がクラフィールの取り分として渡されたのだ。
「今に見てろ。今度はぜぇってぇわたしが先に報告してやるんだかんな」
 クラフィールの裏の顔が出ている今、誰も近付ける人はいなかった。
「ああ畜生。次こそは……逃がさないからなぁおい!」
「ぶっ飛ばしてやんよ!」

「も~。なんであたしが使ってるいつもの席、誰かが使ってるのよ……昨日は欲しかった本を目の前で取られるし、一昨日は小石につまづくし……」
 めそめそと泣きながら歩いている少女─マリランヌ。クリアブルーの髪をツインテールにしフリルがたくさんついたドレスを揺らしながらさっきまでにあった

をあげていた。小さなこととはいえ、こうも毎日が積み重なると嫌になるもの。そうした積み重ねが増えていくと、マリランヌは肩をぶるぶる震わせながらその場に立ち止まった。
「こうなったら何かをブチ壊して発散するしかねぇよなぁ? あぁ? それ以外になにがあるってんだぁ? あははははっ」
 さっきまで潤んでいた瞳から一変、殺気に染まった瞳は口にするよりも明確だった。か細い腕はぼこぼこと隆起し、丸太のように太い腕へと変化させた。そしてグーにしてその腕よりも太い木に向かって真っすぐ叩き込むと木は真っ二つに割れながら倒れていった。
「ふぅ~。あぁ、すっきりしたぁ☆」
 巨木を倒し、晴れ晴れとした顔をしながらマリランヌは再び歩き出した。それでも頭の片隅にある小さなもやもやはまだ蔓延っており、忘れたころにマリランヌの頭に表れては小さく笑う。
「んだあ? まぁだやろうってのか? あぁ? いいぜ、上等だ。ぶっ飛ばしてやんよ!」
「逃がさねぇからなおい!」

「「!!」」

 道がひとつになろうとしているところに二人の少女が出会った。まさか誰かいるとは思わなかった二人は思わず口を抑え、相手の顔を見た。
(やっば! 今の聞かれちゃったかな。でも、聞かれたのなら……)
(あっぶな! やべぇ、今の聞かれちまったか? 聞かれちまったのなら……)
「「ご……ごきげんよう。あはははは」」
 クラフィールとマリランヌは少し引きつったような顔のまま笑い、挨拶を交わした。ぎこちない雰囲気の中、二人はお互いをけん制しながら歩くことにした。
(なんでなんで? さっきまで気配なんてなかったのに……さてはこいつ、やるな)
(このあたしをびっくりさせるほどだ。相当やべえに決まってる……)
「あ……あのう。わたし、クラフィールっていいます。お名前を伺ってもいいですか?」
「あ、すみません。あたしったら……あたし、マリランヌと申します」
「マリランヌさん。素敵なお名前ですね」
「クラフィールさんこそ、可愛らしいお名前です」
「ありがとうございます」
(やばいやばい。なんか話を続けるの難しい……! どうにかしてこっちのこと気が付かれないようにしないと)
(すっげぇ気ぃ遣わねぇとバレそうで危ねぇ。気を引き締めねぇと)
 それぞれが素性をバレないよう必死に隠しながら、話題は趣味へと移った。
「あのう。クラフィールさんの趣味ってなんですか?」
「趣味……ですか? 武器あ……ううん。スイーツ巡り……ですね」
「あらスイーツ巡り。とっても素敵ですわ。今度ご一緒したいです」
「ええ。ぜひ。マリランヌさんの趣味はなんですか?(いやいやいやいや。スイーツ巡りなんてあんましたことないのに!)」
「えっと……鬱憤……違う違う。ショッピングでしょうか」
「ショッピング! いいですね。クラフィール、マリランヌさんの着ているお洋服、気になってたんですよ。今度、そのお店教えてくださいね」
「ええ、もちろん(無理無理無理無理! これ、爺やが買ってきたものだからどこで買ったかなんて知らねぇよ!!)」
 気を抜くことが一切許されない会話をすすめていくうち、徐々にお互いを知ることができた二人。知り合うことでぎくしゃく感が薄れ、次第に自然と会話をすることができ始めていた。驚いたり笑ったりとごく普通の反応を楽しんでいる二人の間に、背後からなにやら物音がし二人は一気に警戒した。
(ったく誰だよ。まさか賞金首か?)
(ったくウゼェな。どこのどいつだ? いっちょブン殴ってみるか?)
 張り詰めた空気の中、現れたのは真っ赤な肌に整髪剤をばっちり着け、胸元をあらわにしている悪魔─ジョヴァンニだった。
「そぉこの素敵なgirlたち! こんなところで何を話しているのだね。ここは危険な魔物でいっぱいだということを知っているのかな?」
「え……そうだったの」
「うそ……」
 魔物が出ることなんて全く知らなかった二人は口元を抑え驚いていた。まさかそんな場所に踏み入れてるなんて、しかもまだお互い裏の顔を隠しているのだから。そうとは知らず、こうして真っ赤な肌の悪魔は教えてくれたのだから、二人は素直に感謝をした。するとそれに気をよくしたのか、ジョヴァンニは二人に近付きながら両手をばっと広げた。
「Oh! お礼はいりませんヨ! でもまぁ、どうしてもってイウなら? このジョヴァンニの胸に飛び込んできてもいいですヨ!」

                 ((なんだこいつ))

 二人はさっきのお礼の言葉を撤回し、代わりに冷めた視線をジョヴァンニに向けていた。そんな視線を送られているとも知らず、ジョヴァンニは今か今かとばかりに目を閉じながら両手を広げている。そんなジョヴァンニに二人はイラッとしたのか、互いに得物を握りジョヴァンニに近付いた。一歩また一歩近付く度にジョヴァンニの顔が嬉しそうに緩んでいく様をクラフィールは何か嫌な生き物を見たかのように歪ませ、マリランヌは笑ってはいるがいたるところに血管が浮き上がり今にも切れそうなほどになっていた。
「ぶっ壊……えーい!」
「すぐに楽にしてやるよぉ!」
「むごぉっふぉ!!」
 クラフィールの凶悪な鉄球とマリランヌの拳がジョヴァンニにヒットすると、きれいな弧を描いて遠くへ飛んで行った。やがて見えなくなったジョヴァンニに安心した二人はほっと安心し、また互いに顔を見合わせた。
「あ……あの……さっき……おっきな声……」
「……えっと……背中から何か大きな……」
 お互い途中まで聞いておきながら、その先は察し口をつぐんだ。そして乾いた笑い声の後、二人は何かを隠そうと可愛らしい喫茶店へと入っていった。それはジョヴァンニをぶっ飛ばしたことなのか、はたまた別のことなのかは二人にしかわからない。
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