★黒胡麻ぷりん まんまる白玉添え

文字数 2,882文字

 その日、月はまんまるでとってもきれいだった。まるで、誰かの目みたいにきらきらしてて宝石のような輝き。あぁ、欲しいなぁ……その輝きをぼくにくれないかな。遠いところにあるとわかっていても手を伸ばさずにはいられなくなったぼくは思い切り手を伸ばす。
「なぁにしてんだお前は」
 突然、骨だけのおじさんに宝石を阻まれてぼくは息を漏らした。あともうちょっとで届きそうだったのになぁ。
「相変わらず、お前は何考えてるのかさっぱりだな」
 骨だけのおじさんに言われてもぼくはなんだかぴんとこない。どういう意味かもわからないから、僕はうーんと唸ってみた。すると骨だけおじさんも宝石を見つめながらぼくにこう言った。
「そういえば、お前はなんで夜行って名前なんだ?」
 ぼくの……名前。考えたこともなかったな。ぼくにとって名前なんてどうだっていい。ただ、友達と歩くだけでとても幸せなんだ。でも、骨だけおじさんはなんでなんでとちょっとしつこかった。ぼくなりに思い出してみるけど……。
「お前の名前の由来が知りたいんだよ」
 んー。思い出せる範囲で……と言うと、あまりすっきりしない表情で仕方ないと返してきた。ちょっと待っててね。えーっと……えーっと……うーん……うーん。

 確か……今日みたいに宝石がまんまるな日だったかな。ぼくが空を歩いていたら、着物をきた女の人がふらふらと歩いていたんだ。どうしたのかなと思って近づいてみたら、宝石に誘われているようにも見えたんだ。その宝石を見つめる目が……宝石と同じくらいにきらきらしてて、すっごくきれいだったんだ。ちょんちょんとその女の人の肩を叩いてみたら、その女の人は振り返ってくれたんだ。そしてぼくを見るなり大きな声で叫んだんだ。
 化け物って叫びながら走っていったんだけど、ぼくには自分が化け物かどうかなんてわからない。ただ、その女の人と違う部分があるとするならば、ぼくの手は鬼みたいに大きくて、耳がほんの少しとんがってるだけ……それだけだよ。だけど、その女の人はひどく驚いていたよ。逃げる女の人とおいかけっこしてまたぼくが女の人の肩を叩くと、今度は全然動かくなってそれからしばらくしたらさっきとはまた違った声を出してたな。なんかすごく苦しそうに唸りながら体を丸めてたな。ぼくはゆっくり女の人に近付いて目と目が合うと、その女の人は一瞬大きく目を見開いたままもう動かくなっちゃったんだ。ぼくは女の人の手に触れるとそこから腐ってぼろりと地面に落ちちゃった。あ、取れちゃった。どうしようか……。うーん。他にも色々な部位に触ってみてもどれもみんな取れちゃって、結局なにも残らなくなっちゃってた。
 壊れちゃったか……残念残念。ぼくはその女の人の口からでた白い塊を持つと、ぼくの友達に手渡した。みんな嬉しそうな声を出しながら吸ってたよ。友達が嬉しいとぼくも嬉しくてね。いい気持ちになったんだけど……その女の人の宝石はもらうことができなかったんだ。それだけがちょっと気がかりだったんだけど……まぁ、いっか。夜は長いしもうちょっと散歩してたらまた会えるかもしれないし。けど、結局その日は誰とも会えなかった。どうしてかな。宝石がこんなにもきらきら輝いているのに誰もそれを見ないなんて……うーん。わからないや。
 また別の日、ぼくは友達と空の散歩をしているとき、大きな赤いはしごみたいなところにやってきたんだ。あまりの大きさにぼくは思わず見上げちゃって……あそこはなんてところだっけ……うーん。わからないや。でも、都に大きな赤いはしごみたいなところってそうそうないから行けばまた思い出す……かも。しばらくそのはしごをみていたら友達が急に騒ぎ出してね。なにかなと思って後ろを振り返ると若い男の子が立ってたんだ。手には紙みたいなものを持ってたな。そして、その男の子が何か言うとその紙が小さな女の子に変わったんだ。すごいすごい。ぼくは初めて見るからくりに拍手すると、その男の子の目が険しくなってぼくを睨むんだ。
「成敗!」
 男の子がぼくに札を投げると、それがぼくの左足にぴたっとくっついたんだ。はがそうにもはがれなくて藻掻いていると、女の子が左足にむかって指でなにかの形を作った途端、ぼくの左足からびりびりするものが走ったんだ。痛くて気持ち悪くて動けなかった。
「臨兵闘者 皆陣列前行」
 耳がざわざわしてから少し、体全体の自由が効かなくなった。あれ、おかしいな右手……動かない。左手……動かない。なんでだろう。
「物の怪、覚悟!」
 男の子がぼくの前に立ってまたなにかぶつぶつ言っていると、ぼくの友達が隙をついて男の子に飛びついた。ぶつぶつ言っているのが途切れると、ぼくの体の自由は戻ってきた。あぶないあぶない。もう少しでやられちゃうところだったよ。ありがとう。男の子は悔しいのか、歯を剥いてぼくをぎろりと睨む。そんなに怒らなくていいじゃないか。
「あやめ!」
 あやめ……あぁ、さっきの女の子のことかな。その子が今度はぼくではなく、友達に向かって突っ込んでいくのがみえた。その中に入ったら……さぁ、どうなるかな?
 女の子は無表情のまま友達の中に突っ込むと、光の輪っかを出してきた。あ、それってもしかして友達が弱いものかもしれない。友達がいなくなるのは寂しいから……えい。ぼくは女の子に手を伸ばしてみた。すると女の子の足元がじゅっと焦げてそれが段々と胸のあたりまで広がっていった。それでも女の子は苦しそうな表情しないで光の輪っかを出し続ける。これ以上は寂しくなるからだめ。今度は女の子の足をぎゅっと握った。ぼろぼろと崩れていってあとは顔だけになると、男の子が大きな声をあげた。さっきまで友達の中にいた女の子は紙に戻り男の子の手に戻っていった。友達は……ちょっと苦しそうな顔をしていたけど全員無事だった。
「……の……夜行め……」
 男の子が何か言っているのが聞こえた。聞き間違いじゃなければ夜行って言ってた……気がする。それ、ぼくのこと? 聞いてみようかと思ったんだけど、友達の中に怒りやすい子がいて、その子から黒い霧がたっくさん出た。だいたいはこの霧に触れるとみんな壊れちゃうんだけど……あれ、男の子……壊れないの? わぁ……壊れない人は初めてだ……君、すごいね! ぼくは嬉しくて男の子を抱きしめたくなったんだけど、気が付いたらいなくなってて……ちょっと残念。でも、壊れない人がいるって思うだけで、なんだか嬉しかったんだ。

「へぇ、そんなことがあったんだ。んで、その男の子名前はなんてんだい?」
 え? 知らないよ。いつの間にかいなくなってたんだし。聞いてもきっと忘れちゃうよ。
「けど、そんな忘れっぽいお前がなんでそんな話を覚えるんだい」
 骨だけおじさんは不思議そうな声色でぼくに聞いた。うーん、そうだなぁ。それはきっと、壊れなかった人だったから……かな。だから僕はまんまるな宝石な日の夜になると、なんだか嬉しいのはそれが理由なのかもしれないなぁ。
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