65.共闘
文字数 1,330文字
「久しぶりだなぁ」
笑顔のその男の指は、何本か欠損していた。
固まるユウキの反応を楽しむように笑った後、ヤヒコは残った指で拳を作ると、彼の肩を軽く小突いた。
「そんな顔するなよ。思った程不自由してないんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ。俺は元々器用だからな。それよりももっと有益な話をしよう。お前だって、そっちのほうが知りたいだろう」
早朝のトレーラーに突然訪問してきたのは、ヤヒコと数人のメム人達だった。その中にはヤチヨとコルの姿もあり、寝起きのユウキ達の頭を一気に覚醒させたのだった。
「軍はもう待機済みだろう?」
トレーラーに乗り込みながら、ヤヒコはアミに訊ねた。彼が頷くのを確認して、ヤヒコは続ける。
「ユウコがミウネの元にいるのは、間違いなさそうだ」
トレーラーの中には、ヤヒコとユウキ、アミ、ヤチヨ、アオイがいた。他の者はもう一台のトレーラーの中で、別のメム人達から同様の説明を受けているのだろう。
「それと、予想はついているだろうけど」
ヤヒコの顔に、笑みはもう浮かんでいない。彼はユウキ達三人に順番に視線を送りながら、こう告げた。
「ツムグも奴らのところだな」
***
紡久の姿が消えたのは、ユウキ達一行が避難所を出て数日後のことだった。
侑子が既にいなくなっていたこと、そしてミツキがザゼルの不穏な言動を証言したことによって、全員で紡久の周囲に気を配っていたはずだった。紡久本人も警戒していただろう。一人にならないようにしていたはずだ。
それなのに。
夜寝床に横になって、布団を掛けたその下から、紡久の身体は音もなく消えたのだった。
「おやすみ」と声をかけたハルカが、返ってこない返事にすぐに気がついた。しかし布団の中には、既に気配すら残っていなかったのだ。枕元で特大のクマのあみぐるみが、しきりに首を傾げているだけだった。
***
「ツムグくんは攫われたのか?」
「そうだろうな。おそらく魔法で」
「例の廃墟に?」
「……間違いないよ。もうあいつらの拠点があの場所しかないことは、突き止めている。ミウネも、やつの部下も、ユウコもツムグもそこにいる。兵器もね」
ユウキ達の質問に、ヤヒコは淡々と答えた。
「ユウコとツムグ、二人の来訪者を攫った理由はおそらく魔力だ。透明な魔力。兵器開発に必要なんだろう」
平空政争の引き金となった事件も、来訪者達の魔力を利用した兵器開発が原因だった。あの頃からずっと、ブンノウの目的は振れていない。
「どう助け出す?」
ユウキの声は緊張していた。強く引き絞った弓のツルのように。弾いたら凄い音が鳴りそうだと、ヤヒコは思った。だからだろう。僅かに口元を緩め、わざと声音を軽くして答えた。
「ちょっと考えがあるんだ」
ヤヒコはアオイを指さした。
「あんただろう? 機械に詳しいっていう人は」
「俺?」
突然自分に視線が集まったので、アオイの声はひっくり返る。ヤチヨが兄に頷いていた。
「作って欲しいものがある。必要な物があれば教えてくれ。すぐに集めてくるから」
次にヤヒコは、妹が首から提げるタブレットを指した。
「チヨ。それちょっと借りるよ。お前も手伝ってやりな」
彼の顔に、再び笑みが戻りつつあった。
ユウキとアミに顔を近づけると、ヤヒコは作戦を話し始めた。
笑顔のその男の指は、何本か欠損していた。
固まるユウキの反応を楽しむように笑った後、ヤヒコは残った指で拳を作ると、彼の肩を軽く小突いた。
「そんな顔するなよ。思った程不自由してないんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ。俺は元々器用だからな。それよりももっと有益な話をしよう。お前だって、そっちのほうが知りたいだろう」
早朝のトレーラーに突然訪問してきたのは、ヤヒコと数人のメム人達だった。その中にはヤチヨとコルの姿もあり、寝起きのユウキ達の頭を一気に覚醒させたのだった。
「軍はもう待機済みだろう?」
トレーラーに乗り込みながら、ヤヒコはアミに訊ねた。彼が頷くのを確認して、ヤヒコは続ける。
「ユウコがミウネの元にいるのは、間違いなさそうだ」
トレーラーの中には、ヤヒコとユウキ、アミ、ヤチヨ、アオイがいた。他の者はもう一台のトレーラーの中で、別のメム人達から同様の説明を受けているのだろう。
「それと、予想はついているだろうけど」
ヤヒコの顔に、笑みはもう浮かんでいない。彼はユウキ達三人に順番に視線を送りながら、こう告げた。
「ツムグも奴らのところだな」
***
紡久の姿が消えたのは、ユウキ達一行が避難所を出て数日後のことだった。
侑子が既にいなくなっていたこと、そしてミツキがザゼルの不穏な言動を証言したことによって、全員で紡久の周囲に気を配っていたはずだった。紡久本人も警戒していただろう。一人にならないようにしていたはずだ。
それなのに。
夜寝床に横になって、布団を掛けたその下から、紡久の身体は音もなく消えたのだった。
「おやすみ」と声をかけたハルカが、返ってこない返事にすぐに気がついた。しかし布団の中には、既に気配すら残っていなかったのだ。枕元で特大のクマのあみぐるみが、しきりに首を傾げているだけだった。
***
「ツムグくんは攫われたのか?」
「そうだろうな。おそらく魔法で」
「例の廃墟に?」
「……間違いないよ。もうあいつらの拠点があの場所しかないことは、突き止めている。ミウネも、やつの部下も、ユウコもツムグもそこにいる。兵器もね」
ユウキ達の質問に、ヤヒコは淡々と答えた。
「ユウコとツムグ、二人の来訪者を攫った理由はおそらく魔力だ。透明な魔力。兵器開発に必要なんだろう」
平空政争の引き金となった事件も、来訪者達の魔力を利用した兵器開発が原因だった。あの頃からずっと、ブンノウの目的は振れていない。
「どう助け出す?」
ユウキの声は緊張していた。強く引き絞った弓のツルのように。弾いたら凄い音が鳴りそうだと、ヤヒコは思った。だからだろう。僅かに口元を緩め、わざと声音を軽くして答えた。
「ちょっと考えがあるんだ」
ヤヒコはアオイを指さした。
「あんただろう? 機械に詳しいっていう人は」
「俺?」
突然自分に視線が集まったので、アオイの声はひっくり返る。ヤチヨが兄に頷いていた。
「作って欲しいものがある。必要な物があれば教えてくれ。すぐに集めてくるから」
次にヤヒコは、妹が首から提げるタブレットを指した。
「チヨ。それちょっと借りるよ。お前も手伝ってやりな」
彼の顔に、再び笑みが戻りつつあった。
ユウキとアミに顔を近づけると、ヤヒコは作戦を話し始めた。