100.既知

文字数 825文字

 球体ロボットが案内したその部屋には、調度品は何もなかった。
 白一色の壁と床。色味に変化もなく、部屋の広さもなかった。まるで折り紙で作った小箱の中に迷い込んだ気分になった。

 ユウキが球体ロボットに続いて入室したドアの他にも、向かい側の壁にもう一枚ドアがあった。
 そのドアの前に、二体は立っていた。

「本当に同じだな」

 侑子が話していた通りの見た目だ。

「お前、背高いなぁ」

 大きい方に向かって、ユウキは言った。

「スタイルは、圧倒的に俺の方が良いみたいだけど。俺そんなに腹出てないし」

 ははっと笑い声を上げると、その一体もつられるように肩を揺らした。ただし、無音だった。

「お前は可愛いね」

 もう一体の前にしゃがみ込む。それだけでもユウキの方がまだ目線が高かったので、視線を合わせようと頭を傾けた。

「あれ? もしかして人見知り?」

 大きなもう一体の片足に隠れるように、小さなそれは僅かにユウキから後退したのだ。その仕草は、まるで恥ずかしがり屋の人間の子供と同じだった。
 ユウキの表情はより柔らかくなる。

「お前たちは、兵器? それとも半魚人?」

 問いかけながら、立ち上がった。

 天井に埋め込まれた照明によって、二体の鱗がきらきらと輝いている。
それは繊細な青のグラデーションで、彼らの表面を隙間なく覆い尽くしていた。

――知ってる。俺は内側の感触も、外側の感触も、どちらもよく知っている

 逆撫でるとどんな音がするのか、知っている。

 一枚一枚が薄く透けていることも、知っている。

 水の中ではより美しく光ることも、知っている。

――どれも体験したことだからだ。俺自身で

「知ってるよ」

 ユウキは二体に順番に視線を送りながら、言葉にした。

「俺はお前たちを知っている」

 二体の背後のドアが開いた。

 球体ロボットが、ドアの向こうへと転がっていく。

「お前たちも俺を知っているんだろう」

 ドアを超えたのは、ユウキが先だった。

背後で、鱗が立てるしゃらりという美しい音が響いた気がした。
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