42.出張
文字数 1,294文字
「それ旅行じゃないだろ」
ステージの後、ユウキと幼馴染達、そして侑子にアミ、紡久のいつもの面々が、ジロウの家に集まっていた。
月に数回、定期的に皆で食卓を囲もうという、定例会のようなものだ。
その席で、アオイの提案に真っ先に突っ込みをいれたのは、ユウキだった。
「いや、旅行みたいなものにすることはできるよ。きっと楽しいし」
「厳密には、出張ってことよね」
アオイの弱い言い訳に被せるように、やんわりと訂正したのは、ミツキだった。
「地方にユーコちゃんのロボットを、普及させに行くんでしょ?」
「そう」
アオイは、真剣な顔つきになった。
「俺達みたいな研究者は、王都の外にも沢山いる。災害に困ったり、手助けが必要なのは、ここだけじゃないんだ。そういう場所で頑張って作られたロボットに、ユーコちゃんの魔法を届けに行けたらと思ったんだよ」
「王都 で魔法をかけたロボットを、送ってやるだけじゃダメなのか?」
ユウキは渋り顔だった。
「わざわざユーコちゃん本人が、出向かなくても」
「いや」
言葉を挟んだのは、アミだった。
彼はわずかの間、ミツキと視線を交わし合った。
「良いかも知れない。ユーコちゃんが、ヒノクニ各地を回るというのは」
「アミ?」
「ユウキ、お前の気持ちも分かるけどね。折角二人で一緒に暮らし始めて、落ち着いた日常が回っているところなのに。……けど、来訪者であるユーコちゃんが色々な場所を見て回るってことは、それだけ各地に、彼女の魔力が通るってことでもあるんだよ」
アミの言葉に耳を傾けていた紡久は、空になったグラスをテーブルに置いた。視線を上げた先に、此方を見ていた侑子の瞳があった。
「……天膜の修復。王が採取できる副産物の量を、増やすことができるんですか?」
侑子からの質問だった。
それに対する答えを述べたのは、ミツキだった。彼女は王府の職員として、中堅に差し掛かる立場にいた。
「多分ね。天膜も、副産物も、私達には見えないらしいから、断言はできないけれど。ユーコちゃんが国の現状や、各地で頑張っている人達を見たら、きっと何かしら心を動かされるでしょう。それだけでも、おそらく……副産物は生産される。更にロボットに魔法をかける行為が加わったら、より確実だろうね」
侑子は隣のユウキを見た。彼は考え込むように、料理の皿を見つめていたが、すぐに侑子へと顔を向けた。
引き結んだ口元と眉間に、僅かに皺が寄っていた。
「……行きたいと、思っている顔だね」
言い終えたユウキの口元が、ふっと緩んだ。眉根が下がって、優しげに侑子を見つめた後、アオイに短い質問を投げる。
「期間は?」
「そうだな。目星のついてる大学と研究施設を一気に回るとなると、二ヶ月くらいじゃないか」
「そんなに?」
「移動手段が車しかないんだよ。王都ぐらいだよ、これだけ鉄道が復旧してるの」
その時、肩をすくめたアオイに、助け舟を出すようなタイミングで、ジロウが「そうだ!」と大きな声を出した。
「巡業!」
椅子から立ち上がったジロウは、「そうだ、そうだ」と独り言と共に大きく頷きながら、ユウキとアミに向けて、こう言い放った。
「お前ら、また巡業行って来い」
ステージの後、ユウキと幼馴染達、そして侑子にアミ、紡久のいつもの面々が、ジロウの家に集まっていた。
月に数回、定期的に皆で食卓を囲もうという、定例会のようなものだ。
その席で、アオイの提案に真っ先に突っ込みをいれたのは、ユウキだった。
「いや、旅行みたいなものにすることはできるよ。きっと楽しいし」
「厳密には、出張ってことよね」
アオイの弱い言い訳に被せるように、やんわりと訂正したのは、ミツキだった。
「地方にユーコちゃんのロボットを、普及させに行くんでしょ?」
「そう」
アオイは、真剣な顔つきになった。
「俺達みたいな研究者は、王都の外にも沢山いる。災害に困ったり、手助けが必要なのは、ここだけじゃないんだ。そういう場所で頑張って作られたロボットに、ユーコちゃんの魔法を届けに行けたらと思ったんだよ」
「
ユウキは渋り顔だった。
「わざわざユーコちゃん本人が、出向かなくても」
「いや」
言葉を挟んだのは、アミだった。
彼はわずかの間、ミツキと視線を交わし合った。
「良いかも知れない。ユーコちゃんが、ヒノクニ各地を回るというのは」
「アミ?」
「ユウキ、お前の気持ちも分かるけどね。折角二人で一緒に暮らし始めて、落ち着いた日常が回っているところなのに。……けど、来訪者であるユーコちゃんが色々な場所を見て回るってことは、それだけ各地に、彼女の魔力が通るってことでもあるんだよ」
アミの言葉に耳を傾けていた紡久は、空になったグラスをテーブルに置いた。視線を上げた先に、此方を見ていた侑子の瞳があった。
「……天膜の修復。王が採取できる副産物の量を、増やすことができるんですか?」
侑子からの質問だった。
それに対する答えを述べたのは、ミツキだった。彼女は王府の職員として、中堅に差し掛かる立場にいた。
「多分ね。天膜も、副産物も、私達には見えないらしいから、断言はできないけれど。ユーコちゃんが国の現状や、各地で頑張っている人達を見たら、きっと何かしら心を動かされるでしょう。それだけでも、おそらく……副産物は生産される。更にロボットに魔法をかける行為が加わったら、より確実だろうね」
侑子は隣のユウキを見た。彼は考え込むように、料理の皿を見つめていたが、すぐに侑子へと顔を向けた。
引き結んだ口元と眉間に、僅かに皺が寄っていた。
「……行きたいと、思っている顔だね」
言い終えたユウキの口元が、ふっと緩んだ。眉根が下がって、優しげに侑子を見つめた後、アオイに短い質問を投げる。
「期間は?」
「そうだな。目星のついてる大学と研究施設を一気に回るとなると、二ヶ月くらいじゃないか」
「そんなに?」
「移動手段が車しかないんだよ。王都ぐらいだよ、これだけ鉄道が復旧してるの」
その時、肩をすくめたアオイに、助け舟を出すようなタイミングで、ジロウが「そうだ!」と大きな声を出した。
「巡業!」
椅子から立ち上がったジロウは、「そうだ、そうだ」と独り言と共に大きく頷きながら、ユウキとアミに向けて、こう言い放った。
「お前ら、また巡業行って来い」