的中②
文字数 1,320文字
日付が変わる前に手紙を出したいとユウキが帰った後に、残った幼馴染たちの間には、やるせない空気が流れていた。
「切ないな」
呟いたのはアオイだった。
「女の子のことであんな感じになってるユウキ、初めて見た。なんだあの情けない顔」
「それだけ本気なんだろうね。でも悲しいね……だって、報われるものじゃないでしょう?」
「しかもあっちの近況だけは、手紙と写真で把握し続けられるっていう」
スズカの言葉に被せるように放たれたハルカの声に、ミツキは「生殺しだわ」と溜息をついた。
「ユーコちゃんがまたこっちに戻ってくることって、もう絶対ないのかな」
無責任承知のアオイの発言には、誰も答えることができなかった。
皆分かっていた。可能と不可能、どちらの方が確率として高いのか、誰にも分からない。
「膿を出し切ればいいんだ」
ハルカはグラスに残った酒を一気に飲み干した。
「こういう時に、ああやって気持ちを吐き出させればいい。俺たちなら受け止めてやれるだろ。皆事情を分かってるんだ。ユウキのこともよく知ってる」
店内の照明が一段暗くなった。流れるBGMの曲調が、ゆったりとした物に変わった。
「ユーコちゃんに彼氏ができたら、ユウキどうなっちゃうんだろう」
スズカがぽつりと零した言葉は、全員が懸念として抱いていた思いだった。
「ユウキは告白しないのかな」
「手紙で? そんなことされたって、ユーコちゃんが困るじゃない。両思いだったとしても、お互い辛いだけだわ。ユウキはユーコちゃんが困るようなこと、絶対しないでしょう」
ミツキは隣のアオイのモジャモジャ頭を払うように手を振った。
「あーあ。切ないな」
アオイは宙を仰いだ。
「こんなことになってるなんて、四年前全く想像なんてしなかった。ユーコちゃんと一緒にいるときのユウキって、すごく良かったじゃん。生き生きしてたしさ、歌ってる時なんて本当に格好良かった。男の俺ですらドキッとするくらい、色気があってさ」
ユウキにいくつものドーナツを口に突っ込まれた日のことを思い出す。あの時アオイは、割と本気でユウキの口から言質を取ろうと考えていたのだ。
「ユーコちゃんいなくなってから、歌ってる時のユウキ変わったもんね」
頷くスズカに、ミツキも同意する。
「ユーコちゃんが来る前に戻ったのよ。あれはあれで良いんだろうけどね。評価されてる。売れてるんだから」
店内に、四人がよく知っている旋律が流れ始めた。ユウキの曲だった。最近はライブハウスの外でも、録音された彼の歌声を耳にすることが増えていた。
暫くの間、幼馴染たちは無言でその歌声に耳を傾けていた。
「見守って、話を聞いてやるしかできないな」
沈黙を破ったハルカの声は、酷く穏やかだった。彼にしては珍しく抑揚の少ない話し方で、それだけで友人たちにはハルカが穏やかならぬ心境なのだということが分かる。
「いっそのこと、文通ができなくなってしまったら。そうしたら吹っ切れるのかもな」
「やめてよ」
ハルカの呟きに、ミツキは眉をひそめた。
「そんなこと言わないで。本当になりそうで怖い」
「悪い」
追加の酒を頼もうと上げた手を、ハルカはミツキの肩に置いて謝った。
僅かに震える彼女の振動が、手に伝わってきた。
「切ないな」
呟いたのはアオイだった。
「女の子のことであんな感じになってるユウキ、初めて見た。なんだあの情けない顔」
「それだけ本気なんだろうね。でも悲しいね……だって、報われるものじゃないでしょう?」
「しかもあっちの近況だけは、手紙と写真で把握し続けられるっていう」
スズカの言葉に被せるように放たれたハルカの声に、ミツキは「生殺しだわ」と溜息をついた。
「ユーコちゃんがまたこっちに戻ってくることって、もう絶対ないのかな」
無責任承知のアオイの発言には、誰も答えることができなかった。
皆分かっていた。可能と不可能、どちらの方が確率として高いのか、誰にも分からない。
「膿を出し切ればいいんだ」
ハルカはグラスに残った酒を一気に飲み干した。
「こういう時に、ああやって気持ちを吐き出させればいい。俺たちなら受け止めてやれるだろ。皆事情を分かってるんだ。ユウキのこともよく知ってる」
店内の照明が一段暗くなった。流れるBGMの曲調が、ゆったりとした物に変わった。
「ユーコちゃんに彼氏ができたら、ユウキどうなっちゃうんだろう」
スズカがぽつりと零した言葉は、全員が懸念として抱いていた思いだった。
「ユウキは告白しないのかな」
「手紙で? そんなことされたって、ユーコちゃんが困るじゃない。両思いだったとしても、お互い辛いだけだわ。ユウキはユーコちゃんが困るようなこと、絶対しないでしょう」
ミツキは隣のアオイのモジャモジャ頭を払うように手を振った。
「あーあ。切ないな」
アオイは宙を仰いだ。
「こんなことになってるなんて、四年前全く想像なんてしなかった。ユーコちゃんと一緒にいるときのユウキって、すごく良かったじゃん。生き生きしてたしさ、歌ってる時なんて本当に格好良かった。男の俺ですらドキッとするくらい、色気があってさ」
ユウキにいくつものドーナツを口に突っ込まれた日のことを思い出す。あの時アオイは、割と本気でユウキの口から言質を取ろうと考えていたのだ。
「ユーコちゃんいなくなってから、歌ってる時のユウキ変わったもんね」
頷くスズカに、ミツキも同意する。
「ユーコちゃんが来る前に戻ったのよ。あれはあれで良いんだろうけどね。評価されてる。売れてるんだから」
店内に、四人がよく知っている旋律が流れ始めた。ユウキの曲だった。最近はライブハウスの外でも、録音された彼の歌声を耳にすることが増えていた。
暫くの間、幼馴染たちは無言でその歌声に耳を傾けていた。
「見守って、話を聞いてやるしかできないな」
沈黙を破ったハルカの声は、酷く穏やかだった。彼にしては珍しく抑揚の少ない話し方で、それだけで友人たちにはハルカが穏やかならぬ心境なのだということが分かる。
「いっそのこと、文通ができなくなってしまったら。そうしたら吹っ切れるのかもな」
「やめてよ」
ハルカの呟きに、ミツキは眉をひそめた。
「そんなこと言わないで。本当になりそうで怖い」
「悪い」
追加の酒を頼もうと上げた手を、ハルカはミツキの肩に置いて謝った。
僅かに震える彼女の振動が、手に伝わってきた。