紡久から侑子へ

文字数 1,022文字

侑子ちゃん


 この間、心配させるようなことを書いてしまってごめん。
 側村に行くことは、実はあまり怖くはなかったんだ。
アミさんからもらった護符があったし、侑子ちゃんが言っていた通り、過去に何があったのか気になっていたから。
恐怖より興味が勝ったって感じ。

 まあ結論から言うと、見えなかったんだけど。

 側村には行った。
エイマンさんとラウトさん、そして政府関係の人が八人。

 鏡の部屋に行って、ここからここまでの鏡がそう、って説明を聞いて、その前に立った。

 正彦さんとちえみさんの時と同じ様に、手を合わせて目を閉じたよ。

 だけど何も起こらなかった。

 何も見えなかったんだ。

 そこそこ緊張していたし、身構えていた。

 拍子抜けしちゃったよ。

 正彦さんとちえみさん、二人の時と何が違ったのかって話になって、あの時との違いといえば侑子ちゃんがいないことと、護符を持っていたことだけなんだけど。

 念のため護符を側村の敷地の外に置いてきてから、改めて俺一人で鏡の前に立つってこともやってみたんだ。

 それでも結果は同じ。

 何も起こらなかった。

 エイマンさんとラウトさんをがっかりさせちゃったかなって、気になったけど。

見えなかったものは見えなかったんだから、仕方ないよね。

 以上、結果報告でした。

 侑子ちゃんにも、心配かけてごめんね。気遣ってくれてありがとう。

 最近はどう?
もう夏休みも終わる頃だね。
宿題は終わった?

 屋敷の庭には沢山ひまわりが咲いてるんだ。ここの所よくスケッチします。
一枚一緒に送ってもらうように、ユウキさんに渡しておく。

 ユウキさんたちは、明日帰って来るはずだよ。今回は前回よりも短い日程だったけど、回った会場の数は多かったみたいだね。

 たまにライブ映像を送ってくれて、こっちに残ってる皆と一緒に観たよ。どこでもとっても盛り上がってた。

 俺は正直、ライブハウスの大音量が苦手。だけど映像で観るとそこまで音の大きさは気にならないし、歌に集中できて良いものだね。

 ユウキさんが留守の間、ジロウさんやリリーさんと時々、魔石ソケットのチェックにリリーさんの家に入ってたんだ。
 侑子ちゃんから手紙が届いていたらそれを回収したり、ユウキさん以外でも手紙がそっちに送れないか改めて試してみたり――結果は知っての通り、ダメみたいだ。

 きっと明日の夜には、そっちにユウキさんからの手紙が届いているんじゃないかな。俺のこの手紙も、その時に読んでもらえてるんだろうね。


 紡久
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