13.異世界の唄
文字数 1,307文字
長老との話が終わった侑子は、一人その場を後にすることとなった。ヤヒコとヤチヨは、ランとまだ話があるらしく、「身体を休めるといいよ」と侑子に告げると、再び桟敷の上に座り直していた。
「ユウコ! あそぼ!」
テントから出てきた侑子の左右から、スサとノハの双子の兄弟が飛び出してきた。
侑子の腕に人懐っこく纏わりつく彼らは、母親に諌められながら、ケタケタと笑っている。
「こら。だめよ。歩きにくいでしょう、離れなさい」
「やーだ」
「ユウコ、遊ぼう!」
双子と聞いたが、顔は瓜二つというわけでなく、スサは母親似の切れ長の目をしている一方で、ノハはヤチヨと同じ丸く大きな目を持っていた。
短く切りそろえた短髪は、二人共やはり黒々としていて、日本で普通に見かける子供と変わらない。
彼らの服装も、ラフでカジュアルだ。
日本の量販店に並んでいそうだ。これはメムの大人達にも当てはまる外見的特徴だった。
ヒノクニの人々の服装が、日本ではあり得ない程個性的なものばかりだったことを思い出すと、メム人は一般的な日本人とかなり親和性の高い外見をしていることになる。
テントもタープも、日本のキャンプ場で見かけるものと変わらない。移動生活を行う少数民族というキーワードから侑子が抱くイメージとは、かなりかけ離れていた。
「ごめんね、疲れたでしょう。こら、いい加減にしなさいよ」
「大丈夫ですよ」
侑子はついそう笑ったが、双子に手をひっぱられながら、心ここにあらずな状態だった。
小さな子供と遊んだ経験などなかったし、そもそもたった今聞いた話を整理するだけで、思考回路がパンク寸前なのだ。
「ねえ、何して遊ぶ? ユウコ?」
自分たちの寝床がある場所なのだろう。小さなテントまで侑子をひっぱっていくと、ノハが瞳を爛々と輝かせながら訊ねてきた。
「そうだなぁ。じゃあ、歌でも歌おうか」
思案することはできなかった。
侑子は完全な思いつきを口にすると、おもむろに手拍子を打ち始めた。
意外な提案だったのだろうか。
スサとノハはぽかんと侑子を見ていたが、彼女の口から歌声が滑り出してくると、途端に笑顔になった。
「楽しい歌ね」
気付けば、キノルの手拍子も加わっていた。
父親の横に留まっていたはずのコルとミサキも、歌声に誘われるように、近くまでやってきている。
「聞いたことないなぁ」
歌声が止むと、すぐにこの感想を述べたのはスサだった。切れ長の目を細めて、首を傾げている。
「並行世界の歌だからね」
侑子は笑った。
予想通りの子供らしい反応が、可愛らしいと思った。
「へええ!」
「並行世界の歌!」
子供たちから、次々と興奮の声が上がり始めた。
侑子が歌ったのは、日本の幼児番組の定番の曲だった。侑子が小さな子供の頃から、何度もその番組の中で歌われてきたものだ。日本で幼少期を過ごした者ならば、きっと多くの人が聞いたことのある歌だろう。
「もっと歌いたい?」
「歌いたーい!」
合いの手のような抜群の反応だ。
疲れ切った身体も、考えすぎてグルグルと空回りを始めた思考も、歌声の後ろで霞むように感じなくなっていく。
「いくよ!」
再びこの世界へ戻ってきてから、一番大きな声を、侑子は張り上げていた。
「ユウコ! あそぼ!」
テントから出てきた侑子の左右から、スサとノハの双子の兄弟が飛び出してきた。
侑子の腕に人懐っこく纏わりつく彼らは、母親に諌められながら、ケタケタと笑っている。
「こら。だめよ。歩きにくいでしょう、離れなさい」
「やーだ」
「ユウコ、遊ぼう!」
双子と聞いたが、顔は瓜二つというわけでなく、スサは母親似の切れ長の目をしている一方で、ノハはヤチヨと同じ丸く大きな目を持っていた。
短く切りそろえた短髪は、二人共やはり黒々としていて、日本で普通に見かける子供と変わらない。
彼らの服装も、ラフでカジュアルだ。
日本の量販店に並んでいそうだ。これはメムの大人達にも当てはまる外見的特徴だった。
ヒノクニの人々の服装が、日本ではあり得ない程個性的なものばかりだったことを思い出すと、メム人は一般的な日本人とかなり親和性の高い外見をしていることになる。
テントもタープも、日本のキャンプ場で見かけるものと変わらない。移動生活を行う少数民族というキーワードから侑子が抱くイメージとは、かなりかけ離れていた。
「ごめんね、疲れたでしょう。こら、いい加減にしなさいよ」
「大丈夫ですよ」
侑子はついそう笑ったが、双子に手をひっぱられながら、心ここにあらずな状態だった。
小さな子供と遊んだ経験などなかったし、そもそもたった今聞いた話を整理するだけで、思考回路がパンク寸前なのだ。
「ねえ、何して遊ぶ? ユウコ?」
自分たちの寝床がある場所なのだろう。小さなテントまで侑子をひっぱっていくと、ノハが瞳を爛々と輝かせながら訊ねてきた。
「そうだなぁ。じゃあ、歌でも歌おうか」
思案することはできなかった。
侑子は完全な思いつきを口にすると、おもむろに手拍子を打ち始めた。
意外な提案だったのだろうか。
スサとノハはぽかんと侑子を見ていたが、彼女の口から歌声が滑り出してくると、途端に笑顔になった。
「楽しい歌ね」
気付けば、キノルの手拍子も加わっていた。
父親の横に留まっていたはずのコルとミサキも、歌声に誘われるように、近くまでやってきている。
「聞いたことないなぁ」
歌声が止むと、すぐにこの感想を述べたのはスサだった。切れ長の目を細めて、首を傾げている。
「並行世界の歌だからね」
侑子は笑った。
予想通りの子供らしい反応が、可愛らしいと思った。
「へええ!」
「並行世界の歌!」
子供たちから、次々と興奮の声が上がり始めた。
侑子が歌ったのは、日本の幼児番組の定番の曲だった。侑子が小さな子供の頃から、何度もその番組の中で歌われてきたものだ。日本で幼少期を過ごした者ならば、きっと多くの人が聞いたことのある歌だろう。
「もっと歌いたい?」
「歌いたーい!」
合いの手のような抜群の反応だ。
疲れ切った身体も、考えすぎてグルグルと空回りを始めた思考も、歌声の後ろで霞むように感じなくなっていく。
「いくよ!」
再びこの世界へ戻ってきてから、一番大きな声を、侑子は張り上げていた。