あの日の色③

文字数 660文字

 一段高くなっているとはいえ、広間のステージはライブハウスよりも低かった。

 侑子はいつもよりも近い位置に見える人々の視線を感じて、身体が強張った。しかし自分の名前を呼ぶ聞き覚えのある声の数々に、自然と笑顔が浮かぶのだった。

この場にいるのは、変身館の関係者ばかり。こちらの世界に来てからの侑子の生活を、支えてくれた人々だった。

「お揃いの衣装素敵!」
「変身館でも着てほしい!」
「待ってましたー!」

 皆手を打ち鳴らし声を張り上げるので、一気に場の空気が熱くなる。
既に酒が回りきった様子の大人たちは呂律が怪しい者もいたが、皆視線はステージの上に定まっていた。

「すっかり出来上がってるなぁ」

 ショウジが酔っ払い達の体たらくを見下ろしながら、愉快そうに笑った。
そんな彼も先程まで酒を口にしていたが、全く酔っているようには見えない。演奏が終わったら羽目を外すんだと宣言している。

「私、こういう雰囲気好きだわ。今日呼んでもらえて本当に良かった。やっぱり叩いてる時が一番楽しいし」
「そうね」

 ミユキの言葉に返したのはリリーだった。

「嫌なこと、考えなくて済むもの。私も音楽の中心にいる時が一番好き」

 深い青のアイシャドウと鱗に隠されて、彼女の表情は分からない。
侑子はほんの少しだけリリーのことが心配になったが、ユウキの大声に意識を客席へと引き戻された。

「皆さん! 今日は僕たちをトリに据えてくれて、ありがとう!」

 歓声が一段大きくなった。

 それが合図だったのだろうか、オレンジの明かりから青く変わったスポットライトが、演奏の開始を促した。

 
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