白を染める色②
文字数 1,170文字
「そのワンピース、とっても可愛いけど替えたほうがいいかしら?」
純白の振り袖姿のリリーが、侑子の立ち姿を眺めながら考え込んでいる。
「リリーの好きなように手加えちゃって構わないよ」
シャツボタンを止めながらユウキが言った。
男性陣は皆スーツを着るようだったが、三人ともシャツからスラックス、靴下まで真っ白だ。
これは何か意味があるんだろうな、と侑子は思った。
「ユーコちゃん、着たいものある? 特に形は何でも構わないのよ。着物でもいいし、ドレスでも構わない。ただちょっとだけ余所行きっぽい感じであれば」
リリーの問いかけに、ミユキが付け足した。
「何着ても色は真っ白だけどね」
そんな彼女が身に着けているのはタイトシルエットの白いドレスだった。
サテン生地の光沢が美しく、身体に沿ったデザインはミユキのすらりとした身体のラインを際立たせていた。普段力強くドラムを叩く人物と同じとは思えない佇まいである。
「じゃあ私、このワンピースのままがいいな。可愛いし」
「オーケー。じゃあ髪の毛に飾りつけてあげる」
リリーは侑子の頭に白い大輪のバラのコサージュを刺してやった。魔法で固定してあるのか、頭を動かしても少しもずれる気配がなかった。
「ありがとう、リリーさん」
どういたしまして、と微笑むリリーの方へ身体を向けると、全員が純白の衣装を見に付けていることで、部屋全体の光度が上がったように感じた。
「白には何か理由があるんだよね?」
先程から気になっていた疑問を口にする。
「午前零時を回る時、人々は白を身につける。一年お世話になった年神様を清潔な布で感謝の意を込めて送り出すんだ。そして新しい年神様には、これから一年の安寧を願うんだよ。祈りの儀が終わったら、白は思い思いの色で染めるんだ」
説明してくれたのはアミだった。
「この国ではね、身につけた白い服を染める特別な儀式がいくつかあるんだよ。毎年のこの歳納と曙祝の時。それから結婚式とお葬式。人々が年神様と出会い別れる時と、伴侶と結ばれる時と親しい人と別れる時だ」
アミは言い淀むことなく説明を終えると、花色の髪を軽く耳にかけた。
白い頬とラベンダー色の瞳がよく見えるようになる。
漂白したように真っ白な衣服は、それぞれの髪色と瞳の鮮やかさを際立たせていた。
侑子はその色彩の一つに、今日は自分も含まれていることを鏡に目を向けながら自覚した。
今の髪はいつもの黒髪とは少しだけ違った、不思議な色をしたままだ。
白い服を染めるのはもちろん魔法である。新年を迎えた曙祝の席で、新しい一年をどのような年にしたいのかイメージして染めるのだという。
そのため明るい色に溢れることが殆どなのだそうだ。
――どんな色にしよう
侑子はぼんやりと考え始めた。
頭の中で様々な色彩が浮かんで、彼女の思考は極彩色の宇宙となって広がっていった。
純白の振り袖姿のリリーが、侑子の立ち姿を眺めながら考え込んでいる。
「リリーの好きなように手加えちゃって構わないよ」
シャツボタンを止めながらユウキが言った。
男性陣は皆スーツを着るようだったが、三人ともシャツからスラックス、靴下まで真っ白だ。
これは何か意味があるんだろうな、と侑子は思った。
「ユーコちゃん、着たいものある? 特に形は何でも構わないのよ。着物でもいいし、ドレスでも構わない。ただちょっとだけ余所行きっぽい感じであれば」
リリーの問いかけに、ミユキが付け足した。
「何着ても色は真っ白だけどね」
そんな彼女が身に着けているのはタイトシルエットの白いドレスだった。
サテン生地の光沢が美しく、身体に沿ったデザインはミユキのすらりとした身体のラインを際立たせていた。普段力強くドラムを叩く人物と同じとは思えない佇まいである。
「じゃあ私、このワンピースのままがいいな。可愛いし」
「オーケー。じゃあ髪の毛に飾りつけてあげる」
リリーは侑子の頭に白い大輪のバラのコサージュを刺してやった。魔法で固定してあるのか、頭を動かしても少しもずれる気配がなかった。
「ありがとう、リリーさん」
どういたしまして、と微笑むリリーの方へ身体を向けると、全員が純白の衣装を見に付けていることで、部屋全体の光度が上がったように感じた。
「白には何か理由があるんだよね?」
先程から気になっていた疑問を口にする。
「午前零時を回る時、人々は白を身につける。一年お世話になった年神様を清潔な布で感謝の意を込めて送り出すんだ。そして新しい年神様には、これから一年の安寧を願うんだよ。祈りの儀が終わったら、白は思い思いの色で染めるんだ」
説明してくれたのはアミだった。
「この国ではね、身につけた白い服を染める特別な儀式がいくつかあるんだよ。毎年のこの歳納と曙祝の時。それから結婚式とお葬式。人々が年神様と出会い別れる時と、伴侶と結ばれる時と親しい人と別れる時だ」
アミは言い淀むことなく説明を終えると、花色の髪を軽く耳にかけた。
白い頬とラベンダー色の瞳がよく見えるようになる。
漂白したように真っ白な衣服は、それぞれの髪色と瞳の鮮やかさを際立たせていた。
侑子はその色彩の一つに、今日は自分も含まれていることを鏡に目を向けながら自覚した。
今の髪はいつもの黒髪とは少しだけ違った、不思議な色をしたままだ。
白い服を染めるのはもちろん魔法である。新年を迎えた曙祝の席で、新しい一年をどのような年にしたいのかイメージして染めるのだという。
そのため明るい色に溢れることが殆どなのだそうだ。
――どんな色にしよう
侑子はぼんやりと考え始めた。
頭の中で様々な色彩が浮かんで、彼女の思考は極彩色の宇宙となって広がっていった。