36.ライブハウス

文字数 924文字

 話に聞いていた通り、商店街の建物に六年前の面影を残す物は、一つも残っていなかった。
震災をきっかけに、商売を畳んだ店も多いのだという。
かろうじて大通りの形だけは残っていて、その場所がかつて賑わっていたあの場所だということを教えてくれた。

「びっくりしただろう?」

 言葉を失う侑子を横目に、ジロウは笑った。ユウキ、アミと共に、ライブハウスへと歩いている途中だった。

「街路樹も街灯も、殆ど倒れちゃったからね。全部取り除いたんだよ」

 以前よりも道が広がったと感じたのは、そういう理由らしい。

「再建したお店の方が、少なそうですね」

「人が減ったからなぁ」

 ため息混じりの低いジロウの声は、まるで別人のようだと侑子は思った。六年前には一度も耳にしたことのない声だった。六年分、一気に老け込んだように感じられて、切なくなった。

「元々地方から出てきた人も多かったんだ。あの震災から、地元に帰っていった家族が沢山いた。無理もないさ……皆必死なんだ」

「そのうち人は戻ってきますよ」

 アミの声は変化がない。

「魔法に頼らずに、ここまで復興が進んだんだ。もっと胸を張って下さい――ほら、ユーコちゃん。見えてきたよ」

 確かこの辺りだった。侑子の記憶は、外れていなかったらしい。
 思い当たりのある一角に、真っ黒なその建物があった。
縦長の一軒家のような趣だが、表には見覚えのある看板の文字が見えた。

「変身館……」

 建物は丸ごと変わっていたが、看板は以前と同じ物を使っているらしかった。傷だらけだったが、記憶の中と同じ三文字が、同じ板の上に並んでいた。

「私の変身、これで大丈夫? ジロウさん」

「もちろん」

 侑子の問に、ジロウは満面の笑みだ。
そして彼はそのまま横のユウキに視線を移して、わざと悪戯そうな顔をつくった。

「ユウキ、お前今日は衣装着替えないで、そのままステージに上がれよ」

「それはいい」

 アミも同意とばかりに大きく笑った。

「こんな大変身遂げる奴、なかなか見られませんからね」

 ジロウが再び此方を向いたので、侑子も向き直った。
優しい目が、侑子を捉えていた。ささくれ立った大きな手が、小さな子供にするように、頭にポン、と乗せられる。

「ユーコちゃん。帰ってきてくれて、ありがとうな」
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