脱皮③

文字数 638文字

 そうこうしている間に、広場にはユウキの曲芸目当てと分かる人々が集まりだした。
常連客たちだ。
彼らは素顔のユウキを知っている者が多い。やってくるとまず声をかけに来てくれる。

 そんな中「まだ化粧してないんだね」と何気なく訊く者が現れ、それに対するユウキの返答に、客たちの間に驚きが広がっていく。

『玉虫色の声』を封印した舞台。

それはこの噴水広場では初の試みで、ユウキの素の声だけの舞台を知らない客も多かった。
もちろん変身館へ出入りする客もいたが、そんな彼らも同様である。

「ライブハウスとは、趣向を変えてやるつもりです」

「それもそれで楽しみだけど……あ、彼女は変身館でも一緒に歌っていた子かな」
 
 若い客の一人が、侑子に視線を向けた。謝恩会の後、何度か変身館でのユウキのステージで歌う機会のあった侑子に、見覚えがあったのだろう。

改めて挨拶した侑子に、その客は明るい笑みを返した。

「君も歌うのか。それは楽しみだな。良い声だったものな。今日は衣装も、変身館とは違うんだね。素敵だよ」

 予想外の褒め言葉に、赤面して狼狽えた侑子だったが、噛みながらもしっかり謝意を伝えることは忘れなかった。
 その様子にユウキが吹き出す。

「どさくさに紛れて口説かないでくださいね」

 からかうようなユウキの言葉とタイミングを合わせたように、侑子と客の間を挟むようにあみぐるみたちが飛び跳ねる。
その場は和やかな雰囲気に包まれた。

 侑子は、きっと大丈夫という予感を確かなものに変えるために、ユウキの緑の瞳を見上げた。
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