45.巡業

文字数 1,181文字

 研究者たちの出張を兼ねた巡業は、賑やかに幕を開けた。

 アオイと研究者が乗るワゴン車が先導し、その後ろを二台のキャンピングカーが追いかける。それぞれのキャンピングカーには、大型のトレーラーが牽引されているので、走っているだけで人々の注目を集めた。

 数年前に行った巡業と同様、ユウキ達が歌う場所となるのは、各地のライブハウスである。アオイが目星をつけていた大学や研究施設も、大体のライブハウスと同じ都市の中にあったので、共に回るには大変都合が良かった。

 参加するのは、ユウキと彼のバンドメンバー達、アオイと彼の同僚、ハルカとミツキ、そして侑子と紡久だった。
ハルカは運転手として、ミツキは王府職員として同行するのだ。

「仕事だってこと、忘れちゃいそう」

 景色が流れていく。
ミツキは隣に座る侑子に、楽しげな口調で話しかけた。

「旅行気分でいてもらって、構わないよ」

 彼女たちを振り返ってそう言ったのは、アミだ。

「あなたの今の任務は、ユーコちゃんとツムグくん、二人の見守りと魔力の底上げ……つまり、一緒に楽しむことなのだから」

「役得よね。才も使えない状態なのに」

 ミツキの魔力の回復は遅い。
人々の魔力減退が騒がれるようになってから、彼女は殆ど魔法を使うことがなくなっていた。無意識に才を使う生活が長かったためか、魔力の枯渇状態が続くようになってしまったのだ。

「細かいこと気にすんなって」

 運転席から、ハルカが声を張り上げる。

「アミもこう言ってるんだから、仕事なんて忘れちまえよ。こんな風に大勢ででかけるの、久しぶりじゃないか」

「そうね」

 ミツキの笑顔は朗らかだったので、侑子は嬉しくなった。

「スズカが来れなくて残念だけど……帰るころには、ヒナタくん、首も座って寝返りが出来てるのかな。楽しみが沢山あるって、素敵だわ」

 スズカは一ヶ月前の二月に、男児を出産した。ヒナタと名付けられた赤ん坊は、大きくてよく眠る子だった。

「お土産を沢山買っていこう」

 後方から提案するのは、ユウキの声。
紡久と座っていたソファから立ち上がって、揺れる車内を移動し、侑子の隣に腰を下ろした。
彼は侑子の頭ごしに、ミツキに向かってこう言った。

「俺とユーコちゃんの結婚式も、その楽しみの中に入ってるよね?」

 ミツキはやれやれ、とわざとらしい呆れた笑みを、口元に作った。

「分かってるわよ」

「ユウキ。惚気ようとしてるとこ悪いけど、そろそろ運転代わってくれよ」

 車が揺れて、侑子の身体はユウキの方へと傾いた。「はいはい」とハルカに返事を返した彼の手が、侑子の頭を自分の方へ引き寄せて、当然の流れのように撫で始める。

「……こういうの、どう思う? ツムグくん」

 真横で身体を寄せ合う恋人達を指差しながら、ミツキは紡久を振り返った。

「もう、どうしようもないと思う」

 言い終えた紡久が笑って、それは車内に伝播していった。
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