スズカから侑子へ

文字数 1,260文字

ユーコちゃん


 元気にしてますか?

 まずはご報告。

 歳納期に入ってすぐの日曜日、晴れて私はサクヤさんと結婚することができました。
 
 なんだかこうやって文字にすると、照れくさいね。

 結婚式の写真、送るね。
魔力を使わずに撮影できるカメラを、この日の為にアオイが頑張って作ってくれたの。
『画質はこれ以上上げられなかった』って、アオイにしては珍しく落ち込んでたけど、私もサクヤさんもとっても嬉しかったんだよ。皆の笑ってる顔、しっかり写ってるでしょう?
 ユウキのこと多めに撮っておいたからね。

 そういえば、ユーコちゃんのお兄さんの名前もサクヤさんって言うのよね。
 名前だけでも親近感が湧くのに、年齢まで一緒って聞いたらもう、時空の隔たりなんて感じないほど身近に思えちゃう。
海外への転勤が決まったとのことだけど、ユーコちゃん、少し寂しくなっちゃうかな? そんな歳じゃないか……うちの妹は私が実家からいなくなっても、『部屋が広くなったー』なんて喜んでるんだよ。もうちょっと言葉を選んで欲しいよねえ。まぁ仕方ないかな。実家を出たって言っても、同じ王都内で引っ越しただけだし。

 私とサクヤさんの家は、変身館の近くなの。
サクヤさんは職場が変身館だし、私も引き続きアルバイトで雇ってもらってるからね。
 
 ライブハウスのことは、ジロウさんやユウキから聞いてるかな。
 魔力不足は全国的に続いていて、インフラ設備が以前から整えられていた水道以外は、ほぼ使えない状況。
電気を使う楽器や音響機材は使わずに、営業してるの。

 でもね、意外とこれが楽しいのよ。
『使えない』とか『制限がある』って聞くと、窮屈で不自由な印象があるかもしれないけど。
 皆新しいことを模索するのを楽しんでる。歌歌いや音楽家達って、きっと楽しみを見つける才能を持ってる。
 
 それにね。
 これは歌歌い達に限ったことじゃないけれど、あの政争の時とは違う。

 前代未聞の事態が起こっていて、終わりは見えない。
そんな苦しい状況であることは、あの政争と同じだと言える。
 だけど政争の記憶を皆覚えてるから……あの時の過ちや反省を心に刻んでいるから、繰り返すもんかって、皆どこかで踏ん張ってる。

 魔力ってね、心を動かすような出来事を感じると増幅するの。知ってた?
 楽しい音楽を聞いて踊りだしたくなった時、美しい虹を空に見つけた時、大好きな人が笑った時。
 そういう時に魔力は上がるの。

 そういう理由もあって、皆少しでも日々を楽しもうって意気込んでるんだよ。全員よ。だからもう、すごくエネルギッシュ。
 暗くなってばかりじゃいられない。
 取り乱して悪い考えに支配されたら、あの政争の悲劇が繰り返されるだけだから。

 笑って、美しいと思う物に心を動かして、内側から力を感じるの。
 そうすれば不思議と、この先もどうにかなるはずって気持ちになるんだよ。
根拠なんてないんだけどね。でも根拠が見当たらないからこそ、強い力なんじゃないかな。

だって理由が見当たらないなら、そこに理由付けるのは、自分の心一つなんだから。



スズカ

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