初夏の提案②
文字数 1,564文字
「ユーコちゃん、また少し背が伸びたんじゃない?」
スズカの言葉に、隣のミツキはそうかなぁと首をかしげる。
今日は二人が侑子と紡久の家庭教師だった。
「伸びたよ、絶対。ちょっと前まで私より背低かったはずだもん」
ほらほら、とスズカは侑子と背中合わせに並ぶと、紡久とミツキに比べるように促した。
「ああ、本当だ。侑子ちゃんのほうがちょっとだけ高いね」
「スズカが小柄なのよ。確か妹にも抜かされたって言ってなかったっけ」
「まだ伸びるかなぁ」
侑子は目線を上に上げながら、ユウキの顔があるあたりまで見上げてみた。
いつも並んで話している時、ユウキの声は決まって侑子の頭の上から聞こえてくる。
背が伸びたらもう少し顔の近くで聞こえるのだろうか。
「もうすぐユーコちゃんが来てから一年が経つのか」
ミツキがクッキーをかじりながら呟いた。
「そりゃ背も伸びるわよね。髪も伸びたし、顔つきだって、少し変わったもん」
開け放った窓からは、初夏の爽やかな風が注ぎ込んでいる。
机に広げたノートのページをパラパラと捲っていく。
それぞれ違う髪色の四人の髪も風に揺らされ、暖かな陽光に照らされた。
「ユーコちゃんが来た日……確か今年は休日だったよ。皆でお祝いしたいね」
スズカが良い思いつきをした、と大きな瞳を煌めかせながら提案した。ミツキは「いいかも」と既に乗り気である。
「でもついこの間、誕生日パーティ開いてもらったばかりだよ」
「いいのいいの。皆お祝いという名目の元にどんちゃん騒ぎしたいんだから。機会が多ければ多いほどいいのよ。ツムグくんの時も、盛大にやってあげるからね!」
「楽しみにしてます」
ミツキの笑い声に乗せられるように可笑しそうに笑った紡久は、指の上で回していたペンを置いた。
膝の上でもぞもぞと動き出したあみぐるみを抱き上げる。先日侑子が新たに作った、大きめのクマだった。
ユウキが飾り付けた青い鱗は背中一面を覆い、侑子の魔法によって自在に動き回る。
先程まで紡久の膝の上で寝息を立てていたそのクマは、今度は彼の膝の上に座らされて大人しくしている。
「そのクマ、ツムグくんに懐いてるよね」
太めの白い糸で編んだクマは、全長五十センチ程あって存在感がある。もちろん中身は全て綿なので重くはないはずなのだが、他のあみぐるみ達よりも動きがのっそりしていた。
そんなクマ(大)は、スズカの指摘した通り紡久の後をついて回るのだ。
「この間こいつのことスケッチしたんだ。その後からだよ。懐かれたの」
「へえ。よっぽど嬉しかったんだね、描いてもらえたの」
頭を撫でるスズカの手に、クマはされるがままになっている。
「紡久くん、可愛く描いてくれるもんね……けど不思議よね。ユーコちゃんのこの魔法って、ユーコちゃんが作ったあみぐるみにしかかからないんでしょ?」
「そうなんです」
侑子は肩を竦めた。
幾度となく試してはきた。あみぐるみの他に、同じような動物を模したぬいぐるみ――市販品だけではなく、侑子自身で布を縫い合わせて作った物もあった――に同様の魔法をかけてみたことはあった。
しかし、どれもあみぐるみ達のように自由な意思を持って動くことはなかったのだ。
侑子の魔法がかかったあみぐるみたちは、自分の意思をはっきりと持っていた。
侑子の考えとは無関係な動きをするし、感情も持っているようだった。
排泄と食事をすることがないだけで、まるで本物の生物である。
今では二十体ほどいる動くあみぐるみたちは、ジロウの屋敷の中で自由気ままに生活している。
侑子が一つ一つの居場所を把握することはなかったが、来て欲しいと心の中で呼びかけると、足元にわらわらと集まってきた。
ノックの音が聞こえた。
四人と、大きなクマの顔がドアに向けられる。
「やあ。勉強中だったよね。ちょっといいかな」
エイマンが立っていた。
スズカの言葉に、隣のミツキはそうかなぁと首をかしげる。
今日は二人が侑子と紡久の家庭教師だった。
「伸びたよ、絶対。ちょっと前まで私より背低かったはずだもん」
ほらほら、とスズカは侑子と背中合わせに並ぶと、紡久とミツキに比べるように促した。
「ああ、本当だ。侑子ちゃんのほうがちょっとだけ高いね」
「スズカが小柄なのよ。確か妹にも抜かされたって言ってなかったっけ」
「まだ伸びるかなぁ」
侑子は目線を上に上げながら、ユウキの顔があるあたりまで見上げてみた。
いつも並んで話している時、ユウキの声は決まって侑子の頭の上から聞こえてくる。
背が伸びたらもう少し顔の近くで聞こえるのだろうか。
「もうすぐユーコちゃんが来てから一年が経つのか」
ミツキがクッキーをかじりながら呟いた。
「そりゃ背も伸びるわよね。髪も伸びたし、顔つきだって、少し変わったもん」
開け放った窓からは、初夏の爽やかな風が注ぎ込んでいる。
机に広げたノートのページをパラパラと捲っていく。
それぞれ違う髪色の四人の髪も風に揺らされ、暖かな陽光に照らされた。
「ユーコちゃんが来た日……確か今年は休日だったよ。皆でお祝いしたいね」
スズカが良い思いつきをした、と大きな瞳を煌めかせながら提案した。ミツキは「いいかも」と既に乗り気である。
「でもついこの間、誕生日パーティ開いてもらったばかりだよ」
「いいのいいの。皆お祝いという名目の元にどんちゃん騒ぎしたいんだから。機会が多ければ多いほどいいのよ。ツムグくんの時も、盛大にやってあげるからね!」
「楽しみにしてます」
ミツキの笑い声に乗せられるように可笑しそうに笑った紡久は、指の上で回していたペンを置いた。
膝の上でもぞもぞと動き出したあみぐるみを抱き上げる。先日侑子が新たに作った、大きめのクマだった。
ユウキが飾り付けた青い鱗は背中一面を覆い、侑子の魔法によって自在に動き回る。
先程まで紡久の膝の上で寝息を立てていたそのクマは、今度は彼の膝の上に座らされて大人しくしている。
「そのクマ、ツムグくんに懐いてるよね」
太めの白い糸で編んだクマは、全長五十センチ程あって存在感がある。もちろん中身は全て綿なので重くはないはずなのだが、他のあみぐるみ達よりも動きがのっそりしていた。
そんなクマ(大)は、スズカの指摘した通り紡久の後をついて回るのだ。
「この間こいつのことスケッチしたんだ。その後からだよ。懐かれたの」
「へえ。よっぽど嬉しかったんだね、描いてもらえたの」
頭を撫でるスズカの手に、クマはされるがままになっている。
「紡久くん、可愛く描いてくれるもんね……けど不思議よね。ユーコちゃんのこの魔法って、ユーコちゃんが作ったあみぐるみにしかかからないんでしょ?」
「そうなんです」
侑子は肩を竦めた。
幾度となく試してはきた。あみぐるみの他に、同じような動物を模したぬいぐるみ――市販品だけではなく、侑子自身で布を縫い合わせて作った物もあった――に同様の魔法をかけてみたことはあった。
しかし、どれもあみぐるみ達のように自由な意思を持って動くことはなかったのだ。
侑子の魔法がかかったあみぐるみたちは、自分の意思をはっきりと持っていた。
侑子の考えとは無関係な動きをするし、感情も持っているようだった。
排泄と食事をすることがないだけで、まるで本物の生物である。
今では二十体ほどいる動くあみぐるみたちは、ジロウの屋敷の中で自由気ままに生活している。
侑子が一つ一つの居場所を把握することはなかったが、来て欲しいと心の中で呼びかけると、足元にわらわらと集まってきた。
ノックの音が聞こえた。
四人と、大きなクマの顔がドアに向けられる。
「やあ。勉強中だったよね。ちょっといいかな」
エイマンが立っていた。