解放②

文字数 583文字

 打ち寄せる波の中で抱き合う二人を見た時、シグラの心は鎮まっていった。
力強く打ち鳴らした鐘の音が、残響を残したまま消えていくように。

「予知夢……か」

 呟いた途端、何度も見てきたあの不吉な夢の記憶が、どんどん朧げになる。回想しようとすればいつも鮮明に思い描けていたはずの光景は、思考の中で明確な色すら浮かんでこなかった。

――これが救われたということなの?

 侑子にかけられた言葉を反芻した。

――私とブンノウの夢は打ち消された……いや、上書きされたようなものなのか。ユーコとあの半魚人が見た夢によって

 その若い男女二人は、お互いをしっかりと見つめ合いながら笑っていた。
あんな風にブンノウと向き合えたことが、これまで一度でもあっただろうか?

「いいなあ」

 誰かを羨む一言。
ひどく幼稚で素直な言葉が、音となる。

 シグラはそんな言葉が零れ落ちてきた場所が、自分の口であると気づいて薄く笑った。

――もう間に合わないのかしら。私達は……

 ブンノウの背中を見て、彼がこちらを振り返らないか少しだけ期待する。諦めきれないのは、きっとシグラの悪い癖だ。

――分かってる。分かってる。分かってる……この癖を直せなかったから、私は凶夢の警告を無視したんだ

 シグラは泣きそうなって、次の瞬間には立ち上がっていた。
少し離れた前方に向かって、強く手を伸ばした。

「もういいっ! やめよう! ブンノウッ!」
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