十二月③

文字数 534文字

 とは言っても、昼間のこの時間に館に残っている者は、意外と少なかった。
央里の外から訪れた人は、王都観光に出かけているし、ライブハウス関係者は、変身館に出向いていることが多いのだった。

 そのため黙々と練習に励むことのできた侑子は、空き箱を美しい鉱石で、どんどん満たしていった。

皆の助言通り、数をこなすほど速度が早まるものなのだろう。慣れとは侮れないものである。いつしか手の上の小石を注視しなくとも、変換を成功させることができるようになっていた。

しかし、気を抜いて魔力を暴発させては大変だ。

 気合を入れ直すつもりで、大きく伸びをした。
そこへ、サンルームの向こう側から、誰かの声が聞こえてきた。

「ごめんください」

 ドアベルも鳴ったのかも知れないが、聞こえなかった。

来客だろう。今月に入って何度も来客を出迎えていたので、知らない人物のそんな声にも、慣れていた。

「ごめんなさい、チャイムが聞こえなくて」

 ノマも外出しているのだろう。彼女が在宅なら、真っ先に出迎えているはずだ。

早足で玄関に向かった侑子の目が捉えたのは、案の定知らない人物だった。傍らに、大きなスーツケースが置いてある。

「歳納のお客様でしょうか?」

 年末年始を共に過ごす為に訪れた客であれば、この質問に頷くはずだ。
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