103.夢の共有

文字数 1,027文字

「夢を共有する者同士が、お互いにどんな存在であるか……知ってる?」

「ユウキちゃんから聞きましたよ。人生における、キーパーソンなんだって」

「そうね」

「シグラ……あなたもブンノウと夢の共有をしていたなんて。やっぱりこっちの世界では、よくある現象なんだ」

「ええ。たまにね。並行世界の向こうの人物と共有ってケースは、初めて聞いたけど」

 大きなモニターの前で、侑子とシグラの会話は続いていた。モニターの中のユウキも、半魚人達に何かを話しているようだった。音声は繋がっていないので、内容までは聞こえてこなかったが。

「私とブンノウの場合は、悪い夢の共有よ。これ以上ないって位の凶夢。史上最悪なんじゃないの」

 皮肉めいた笑みを漏らしながら、シグラは締めくくった。

「天膜が見える才を持って生まれて、世界を作り直す野望を抱いたサイコパスと結ばれて……私は呪われてる。でも、あなた達の夢がきちんと正夢になった時、呪いはなかったことにできるのかしら」

 緋色の瞳には影が落ち、照明で照らされた髪が燃えるように鮮やかだった。侑子はその色を、美しいと思った。

「なかったことになんて、できるはずない」

 画面の向こうで、ユウキが笑っていた。緑の瞳が優しく揺れている。

「なかったことにしたら、悪夢に巻き込まれた人達の死も悲しみも、なかったことになってしまう」

 頬にかかる髪の桜色が目に入った。
侑子の脳裏にちえみの顔が思い浮かんで、震災で変わり果てた王都の町並みを思い出した。

「そうかもね」

 短く頷いたシグラは、先程ダチュラの命の通路(かよいじ)を断ち切った、自分の指先を見つめた。天膜に刃物を突き立てた時に見えた鮮血の錯覚が、再び蘇ってくる気がした。

「だけど、もしかしたら……確信は持てないけど」

 言うのを躊躇した侑子の視線が彷徨って、再びユウキの顔の上で止まる。

「少しは救えるかもしれない」

 シグラに向き直った侑子は、じっと彼女の緋色を見つめた。

「そうなったらいいわね」

 シグラの声は穏やかだった。
同じ口調のまま、たった今思いついたというように、彼女は続けた。

「もしかしたら私たちの夢は、繋がっていたのかもね。夢の中で出会ってはいないけれど、実は四人一緒に共有していたのかも」

「そんなこともあるの?」

「さあ。聞いたことないけど」

 柔らかい笑顔のシグラは、まるで別人のようだった。

 微かに驚きを覚えて目を丸めた侑子だったが、二人を見守っていた紡久の、「あ!」という声で、モニターに視線を戻したのだった。
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