ライブハウス③
文字数 1,112文字
ステージは板張りだった。
侑子がそこに上ると、微かに軋む音が鳴った。
「床板や壁、ジロウさんの屋敷から再利用したんだよ」
「そうなの?」
びっくりして思わずしゃがみ込んだ。床を手で撫でる侑子の隣に、ユウキは腰を下ろした。
「あの屋敷は、倒壊しなかったからね。使える場所を綺麗に残して解体して、ここの建設に利用したんだ。変身館だけじゃないよ。商店街の店で再建した建物にも、使ってもらってる」
「そっか……おんなじなんだね」
手に伝わってくる感触に、ぬくもりを感じるような気がした。
様変わりした街の光景に衝撃を受けたばかりの頭に、懐かしい暖かさが差し込んでくる。
「資材も不足してたから、良いアイデアだったよ。ジロウさんは流石だな。魔法が使えないから、作業は大変だったけどね」
その言葉はアミのもので、彼はギターをステージの上に運び込んでいた。
スタンドに立てかけると、機材を確認し始める。
「ユーコちゃん、歌ってみない?」
スタンドにセットされたマイクは、既に機能しているようで、アミの声を拾ってホール全体を振動させた。
ユウキが立ち上がって、侑子に手を差し出した。
立ち上がって、ステージからホールを見渡してみる。
観客は誰もいなくて、入り口から此方に手を振る、ジロウの姿だけが見えた。
照明もステージを照らすスポットライトが一つしか灯っていないので、空間全体は仄暗い。
「歌おう」
ユウキのその声の後で、侑子達はいくつかの言葉を交わしたはずだ。けれど不思議と、それがどんな会話だったのか、侑子の記憶はすぐに曖昧になる。
気づいたときには音楽が始まっていて、自分の口から歌声が溢れ出していた。
マイクが拾った声は、増幅されて、あっという間に全身を包み込む。
久しぶりに電気を介して運ばれたその音は、少しだけ歪んでいたけれど、侑子には心地よかった。
自分の声に重なるもう一つの声。
その音が懐かしい。すぐ隣で自分の音と混ざり合っていることに、信じられない思いだ。
――歌えた
再会してからの移動中も、二人で歌うことはあった。
しかしステージの上で、こうしてマイクを通じて歌えたのは、戻ってきてから初めてのことだった。
――一緒に歌ってる。ユウキちゃんと一緒に、歌ってるんだ……
共に歌っていることの実感が、より強く感じられる。
それはスピーカーから聞こえる音が、空気を大きく振動させるからだろうか。
息苦しくなって、歌を止めた侑子の顔は、濡れてぐちゃぐちゃになっていた。
アミのギターの音が止んで、隣から伸ばされた手が、侑子の肩の上で止まった。
「おかえり、ユーコちゃん」
ホールの中央から、ジロウの声が聞こえた。
「ずっとこの場所で、君の歌を聴きたいと思っていたよ」
侑子がそこに上ると、微かに軋む音が鳴った。
「床板や壁、ジロウさんの屋敷から再利用したんだよ」
「そうなの?」
びっくりして思わずしゃがみ込んだ。床を手で撫でる侑子の隣に、ユウキは腰を下ろした。
「あの屋敷は、倒壊しなかったからね。使える場所を綺麗に残して解体して、ここの建設に利用したんだ。変身館だけじゃないよ。商店街の店で再建した建物にも、使ってもらってる」
「そっか……おんなじなんだね」
手に伝わってくる感触に、ぬくもりを感じるような気がした。
様変わりした街の光景に衝撃を受けたばかりの頭に、懐かしい暖かさが差し込んでくる。
「資材も不足してたから、良いアイデアだったよ。ジロウさんは流石だな。魔法が使えないから、作業は大変だったけどね」
その言葉はアミのもので、彼はギターをステージの上に運び込んでいた。
スタンドに立てかけると、機材を確認し始める。
「ユーコちゃん、歌ってみない?」
スタンドにセットされたマイクは、既に機能しているようで、アミの声を拾ってホール全体を振動させた。
ユウキが立ち上がって、侑子に手を差し出した。
立ち上がって、ステージからホールを見渡してみる。
観客は誰もいなくて、入り口から此方に手を振る、ジロウの姿だけが見えた。
照明もステージを照らすスポットライトが一つしか灯っていないので、空間全体は仄暗い。
「歌おう」
ユウキのその声の後で、侑子達はいくつかの言葉を交わしたはずだ。けれど不思議と、それがどんな会話だったのか、侑子の記憶はすぐに曖昧になる。
気づいたときには音楽が始まっていて、自分の口から歌声が溢れ出していた。
マイクが拾った声は、増幅されて、あっという間に全身を包み込む。
久しぶりに電気を介して運ばれたその音は、少しだけ歪んでいたけれど、侑子には心地よかった。
自分の声に重なるもう一つの声。
その音が懐かしい。すぐ隣で自分の音と混ざり合っていることに、信じられない思いだ。
――歌えた
再会してからの移動中も、二人で歌うことはあった。
しかしステージの上で、こうしてマイクを通じて歌えたのは、戻ってきてから初めてのことだった。
――一緒に歌ってる。ユウキちゃんと一緒に、歌ってるんだ……
共に歌っていることの実感が、より強く感じられる。
それはスピーカーから聞こえる音が、空気を大きく振動させるからだろうか。
息苦しくなって、歌を止めた侑子の顔は、濡れてぐちゃぐちゃになっていた。
アミのギターの音が止んで、隣から伸ばされた手が、侑子の肩の上で止まった。
「おかえり、ユーコちゃん」
ホールの中央から、ジロウの声が聞こえた。
「ずっとこの場所で、君の歌を聴きたいと思っていたよ」