重なる声②
文字数 1,137文字
次の噴水広場での演奏まで、半月ほど時間が空いた。
いつもなら一週間に一、二度の頻度だったものがそこまで間が空いた理由は、ユウキの卒業が挟まったからだった。
「おめでとう」
ジロウと共に校門の側で待機していた侑子は、ユウキといつもの友人四人の姿を見つけるやいなや、駆け寄って祝福の言葉を彼らにかけた。
ジロウと二人で、一人一人に小さなブーケを手渡していく。
庭で今朝摘んだばかりのサルビアと秋桜が、仄かな緑の芳香を放つ。ノマが作ってくれたブーケだった。
制服がないというこの世界の卒業式とは、どんなものなのだろうと、侑子は密かに興味を持っていた。ところがその光景は、彼女を拍子抜けさせるものだった。
女子生徒達は振り袖袴姿が多く、そうではない者はかっちりとしたスーツ姿だった。男子生徒も同じようなもので、スーツが多い。中に時折紋付袴姿の者がいる。
侑子のいた世界の卒業式の風景と、大差のないものだったのだ。ただ違うのは、色柄が派手で色鮮やかである点だけだ。
「もう明日からは社会人なのね。あー、もっと青春しとけばよかったなぁ」
髪の色と合わせたのだろうか、山吹色の明るい振り袖を揺らして、ミツキが空を仰ぎ見た。
「まあ、がんばってくれよ公務員。俺はまだまだ学生の時間を楽しむからさ」
ニヤニヤしながらそう告げたアオイは、ミツキに壮大な蹴りを入れられた。
そんな彼は就職組ではなく、大学に進んで研究職を目指すのだという。
「卒業したらすぐに新生活が始まるんだね」
侑子には馴染みのない、十月卒業という仕組みだった。
この世界では満七歳の年から学生となり、そのまま小中高という区切りなく、十二年間の学生生活を送るのだという。
能力に合わせて飛び級や留年の仕組みもあるが、大体の者は十八歳の年の十月もしくは翌年の四月に卒業となる。
義務教育期間が終わった後は、各々就職するか、更に高度な教育機関や職業専門校に進学するのだ。
「私達は頑張って勉強しなきゃね」
からかうアオイを嗜めているスズカも進学組だ。どういう分野の学校に行くのかは聞いていたが、魔法に関する学問だったので、侑子はよく理解できなかった。しかし変身館の運営に活かすことができる分野らしく、卒業後はジロウの元でアルバイトもするのだと聞いていた。
「よーし。そろそろ変身館行こうぜ。ユーコちゃんも、行くんだろ?」
ハルカの言葉に、侑子は緊張気味に頷く。
これから変身館で始まろうとしているのは、彼らの謝恩会だった。
侑子は配膳の手伝いをジロウから頼まれていた。
そして、もう一つ重大な仕事が控えていたのだった。
ぞろぞろと連れ立って変身館へ向かい出しながら、侑子はユウキからトントンと肩を突かれた。
その顔は満面の笑みである。
「大丈夫。一緒だから、ね」
いつもなら一週間に一、二度の頻度だったものがそこまで間が空いた理由は、ユウキの卒業が挟まったからだった。
「おめでとう」
ジロウと共に校門の側で待機していた侑子は、ユウキといつもの友人四人の姿を見つけるやいなや、駆け寄って祝福の言葉を彼らにかけた。
ジロウと二人で、一人一人に小さなブーケを手渡していく。
庭で今朝摘んだばかりのサルビアと秋桜が、仄かな緑の芳香を放つ。ノマが作ってくれたブーケだった。
制服がないというこの世界の卒業式とは、どんなものなのだろうと、侑子は密かに興味を持っていた。ところがその光景は、彼女を拍子抜けさせるものだった。
女子生徒達は振り袖袴姿が多く、そうではない者はかっちりとしたスーツ姿だった。男子生徒も同じようなもので、スーツが多い。中に時折紋付袴姿の者がいる。
侑子のいた世界の卒業式の風景と、大差のないものだったのだ。ただ違うのは、色柄が派手で色鮮やかである点だけだ。
「もう明日からは社会人なのね。あー、もっと青春しとけばよかったなぁ」
髪の色と合わせたのだろうか、山吹色の明るい振り袖を揺らして、ミツキが空を仰ぎ見た。
「まあ、がんばってくれよ公務員。俺はまだまだ学生の時間を楽しむからさ」
ニヤニヤしながらそう告げたアオイは、ミツキに壮大な蹴りを入れられた。
そんな彼は就職組ではなく、大学に進んで研究職を目指すのだという。
「卒業したらすぐに新生活が始まるんだね」
侑子には馴染みのない、十月卒業という仕組みだった。
この世界では満七歳の年から学生となり、そのまま小中高という区切りなく、十二年間の学生生活を送るのだという。
能力に合わせて飛び級や留年の仕組みもあるが、大体の者は十八歳の年の十月もしくは翌年の四月に卒業となる。
義務教育期間が終わった後は、各々就職するか、更に高度な教育機関や職業専門校に進学するのだ。
「私達は頑張って勉強しなきゃね」
からかうアオイを嗜めているスズカも進学組だ。どういう分野の学校に行くのかは聞いていたが、魔法に関する学問だったので、侑子はよく理解できなかった。しかし変身館の運営に活かすことができる分野らしく、卒業後はジロウの元でアルバイトもするのだと聞いていた。
「よーし。そろそろ変身館行こうぜ。ユーコちゃんも、行くんだろ?」
ハルカの言葉に、侑子は緊張気味に頷く。
これから変身館で始まろうとしているのは、彼らの謝恩会だった。
侑子は配膳の手伝いをジロウから頼まれていた。
そして、もう一つ重大な仕事が控えていたのだった。
ぞろぞろと連れ立って変身館へ向かい出しながら、侑子はユウキからトントンと肩を突かれた。
その顔は満面の笑みである。
「大丈夫。一緒だから、ね」