託されたこと②

文字数 552文字

 コートのフードをかぶって歩き始めると、夕方に差し掛かった商店街の明かりが、ぽつりぽつりと灯り始めた。

 そろそろ十一月も半ば。
来月の年末年始を祝う、“歳納(さいのう)”と“曙祝(しょしゅく)”に向けて、街は浮足立つと共に、忙しない雰囲気だ。

家族や友人など、親しい人々と共に新しい年を迎えるまでの半月ほどを共に過ごすのが、この国の習わしだ。

仕事をしている人は、長めの休暇に入る者も多く、普段は居を別にしている友人や、離れた場所に暮らす家族とゆったりと時を過ごす。
子供はもちろん、大人たちも一年の締めくくりのこの行事を、心待ちにする人は多い。

 リリーももれなく、その一人だ。

 五年前、両親と兄が失踪するまでは、家族四人と農場で一緒に働いていた従業員とその家族と共に、年末年始を過ごしていた。

 土が凍り桑の葉が落葉する十一月から二月下旬までは、農閑期にあたる。一年の中で最も皆がのんびりできる季節でもあった。エイマンの一家が合流する年もあり、毎年とても賑やかに過ごしていたものだ。

 家族がいなくなってしまってからは、リリーは家で誰かを迎える側から、迎えられる側となった。ジロウの屋敷で、過ごすようになったのだ。近所ではあるし、たまに帰宅することはあったが、自宅以外の場所で一定期間連続して寝起きするのは、リリーにとって新鮮な経験だった。
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