開かれたもの⑤

文字数 521文字


 あ つ い

頭に浮かんだのはその感情だけで、次に把握したのは凶暴な光だった。

 目の前に広がる一面の火の海。

 その炎は彼が今までの人生の中で目の当たりにした炎の類――コンロの炎やキャンプファイヤーの炎とは全く異なる形状をしていて、視界いっぱいに広がる巨大な熱の固まりだった。

 焼かれる――声を出そうにも、あまりの熱さで息を吸うことも、吐くこともできなかった。

開口したまま喘いで、漠然と死を連想した。

 しかし意識を手放す前に、そこが炎に包まれた建物の内部であったのだと彼は気づく。

 建物の外側に投げ出されたからである。

 なぜ足を一歩も動かさないままに、自分が外の地面に叩きつけられているのか。全く分からない。

 焼きつける熱さから解放されたと分かったのと、擦りむいた腕と打ち付けた膝の痛みに呻いた自分の声が、本物だと把握しただけである。

 吸い込む空気は冷たくて、身体に取り込めば取り組むほど少しだけ五感がはっきりしてくる。

 激しく咳き込みつつ本能のままに荒い呼吸を繰り返しながら、彼は目の前に立ち上る巨大な火柱を見上げた。

其の中に僅かに誰かの腕が見えた気がして、やはりそれは崩れた木片だったのかもしれないと思う。


 彼の意識はそこでぷつりと途切れた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み