歌声④

文字数 437文字

「ユーコちゃん……?」

 不安げな彼のその声に、侑子は顔を上げた。眼の前には沈痛な表情を浮かべる、ユウキが立っていた。

「ユウキちゃん……!」

 侑子は握りしめたハンカチで、ぐいと顔を拭くと、目を見開いてこう告げたのだった。

「凄かった! すごく、すごく良かった! ユウキちゃんの歌声、とっても良かったー!!」

 興奮しているのか、顔は赤く上気している。黒縁メガネは外し、ハンカチとは反対の手に握りしめられていた。侑子の焦げ茶色の瞳は、潤んできらきら輝いている。

 ユウキはその瞳を見て、彼女が悲しくて涙しているのではないと察した。

「あぁ……もっと気の利いた言葉が出てくればいいのになぁ。すごいとか良いとか、そんな感想しか言えないなんて」

 小声でそうつぶやいて、侑子はすぐにまたユウキを見つめてくる。

「ユウキちゃんの歌、とっても好きだよ。ありがとう。聴かせてくれて」

 今度は顔いっぱいの笑顔だった。

 ユウキは返すべき言葉を咄嗟に思いつけず、ただ目を瞠って、少女の笑顔を見つめ返していた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み