39.正解

文字数 892文字

「ギターを?」

 ユウキから提案をされた時、侑子はその楽器の弦の張替えを手伝っているところだった。

 ジロウの屋敷では、沢山の楽器を保管していた。殆どが変身館で使用されるものなのだが、仕舞いっぱなしにならないように、たまに外に出して保管庫の空気を入れ替えついでにメンテナンスも行う。

「うん。教えてあげるよ。ツムグくんも一緒に」

「俺も?」

 カットした弦を外しながら、紡久はきょとんとした顔をした。

「私もね、教えてもらうことにしたの。ほら、アミもここで下宿続けることになったでしょ。先生二人いれば頼もしいじゃない。それに三人一緒に教えてもらうの、楽しそうじゃない?」

 リリーが笑った。今日は彼女も一緒にメンテナンスを行っている。

「二人は楽器の経験は?」

 アミの質問に、侑子と紡久は顔を見合わせながら首を振った。

 侑子は幼い頃、仲良しの友達の影響でピアノ教室に憧れた時期があったが、当時は古い集合住宅に住んでいたこともあって叶わなかった。
それから楽器を習う機会は訪れないままだったが、人前で歌うことすら避けてきたのだから、当然といえば当然だった。

「紡久くんもないんだ?」

 侑子の問いかけに、紡久は少しだけ気まずそうな表情を浮かべた。

「うん……まあ、今まで音楽やろうとか、ちっとも思ったことないし」

「楽器って楽しいわよ」

 クロスを片付けたリリーは、ピアノ椅子に腰掛けた。流れるような指先が美しい旋律を紡ぎ出していく。

「私も弾きながら歌えるようになるかな」

 響き出したリリーの低い歌声に聞き惚れながら、侑子は呟いた。

 密かに憧れていたのだ。ピアノを弾きながら、ギターをかき鳴らしながら、踊るように歌う姿に。

変身館で目にする歌歌い達は、楽器を演奏しながら歌う人が多かった。侑子の身近では、リリーとユウキがそうだった。

皆何でもないことのように、声と楽器の二つの音を巧みに操っているように見えたが、侑子にはとても高度な技に映る。

「慣れればできるようになるよ」

 小さな呟きは、しっかりユウキに拾われていたようだ。

 弦を張り終えたギターを彼に手渡すと、「やってみる?」と再び問いかけられて、侑子は頷いていた。
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