41.思い出

文字数 1,146文字

 ユウキとアオイが久しぶりの再会を楽しんでいた頃、侑子と紡久はエイマンの運転する車の後部座席に並んでいた。

助手席にはジロウの姿もある。

エンジン音の全くしない無音の車内は静かで、振動もほとんど伝わってこない。侑子がこちらの世界で車に乗るのは初めてではなかったが、何回乗っても乗車している感覚がなく不思議だった。

「すごく静かだよね」

 王都への長距離移動以来の乗車となる紡久は、素直な感想を口にする。

侑子も数ヶ月前に同じ反応を示したことを思い出したのか、エイマンとジロウが笑った。あの時もエイマンが運転して、ジロウが同乗していたのだった。

「こっちの車の動力源って、全部魔石なんだって。電気自動車だよ」

「なるほど。黄色の魔石か……とんでもなく大量に使いそうだね」

 侑子の簡単な一言説明で納得できたようだった。
紡久も大分この世界の常識に馴染みつつある。

侑子ほど外出に興味がないらしく、屋敷から出ることの少ない紡久だったが、彼の読書量はかなりのものだった。一日の大半をスケッチか読書に費やしているのではなかろうか。

「車みたいな大きな物に使われる魔石は、一般的なものとは形が違うんだよ。手のひらサイズの球体じゃなくて、魔石を取り付ける場所に沿う形に作られるんだ。大きさも大きいんだよ。残量を確かめないと突然止まってしまうからね、簡単に可視化できるようにもなってる。興味があるのなら後で見せてあげるよ」

 エイマンが説明を補足した。紡久は興味深そうに頷きながら、更にいくつか質問をしている。

侑子にはよく分からない自動車についての用語が飛び交った。

「そういえばユーコちゃん。さっきユウキから連絡があったんだけど、今夜変身館(ライブハウス)の方にハルカ達全員揃うらしいよ。アオイが帰ってきてるからな。皆で久しぶりに集合するんだって。終わったら変身館に送ってもらおうか?」

 後部座席へ顔を向けたジロウの言葉に、侑子はぱっと顔を輝かせる。

 アオイ以外のユウキの幼馴染たちとは日常的に会うことができているが、全員で一同に会することは久しぶりのことだった。

お願いします、と前席の二人に頭を下げると、紡久にも一緒に行こうと誘いをかけた。紡久は普段あまり変身館にも足を運ばないが、快く頷いてくれた。

「そういうことなら、なるべく長引かないようにするよ」

 エイマンの言葉に侑子は慌てて首を振る。

「いいんです。ちゃんとお話したいから、大丈夫です。あの……お忙しい方だっていうのは知っています。だから、時間が許す限りで勿論いいんです。できるだけ、色々教えてもらいたいです」

 紡久は僅かに表情を引き締めた。言いながら侑子の背筋も無意識に伸びる。

 二人共緊張し始めていた。

 これから彼らが向かうのは、エイマンの自宅だった。彼の父親と会おうとしているのだ。
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