踊る無機物③
文字数 1,118文字
それから数日後。
侑子はいつもの噴水広場で、舞い歌うユウキを見守っていた。
この世界に来てから、既に何度もこの広場での彼の曲芸を観客として観てきたが、今日は初めて観た時のように少々緊張していた。
それには理由がある。
いつもならユウキが操っているマリオネットの姿はそこにない。
代わりに台の上で彼の歌声に呼応して踊るのは、あみぐるみたちだった。
青、黄、白の色違いの三匹のクマたちは、それぞれ身体の異なる部位にユウキの衣装とお揃いの鱗を煌めかせ、トコトコとステップを踏み、くるりとターンを決めていく。
いつもなら“才”により別人の声に次々変わるユウキの歌に夢中になる観客たちの目は、今日は漏れなく三体のクマに注がれていた。
「なんだあれ……? ロボット?」
「ただのぬいぐるみに見えるけど……」
訝しげに呟く声が、度々耳に入る。
侑子ははらはらしていたが、対照的にユウキはいつもより楽しげだった。
マリオネットを操作棒で操る手間がないからだろうか。手振りも加え、自らも踊るようにして歌っていた。
やはり声は次々と老若男女様々な他人のものに変わっていく。
侑子はあみぐるみの様子に気を取られつつ、今日も歌うユウキの表情を確認していた。やはり変身館で歌う彼とは、別人のように見えた。
やがて歓声と拍手で、その場が騒がしくなる。ユウキが観客たちに深く頭を垂れて、最後の口上を述べているのが見えた。
三体のクマたちは、そんな彼を真似るようにお辞儀をしている。真ん中の一体が頭の重さに耐えられずに前方に倒れた。観客たちから明るい笑い声が漏れた。
「素敵な助手さんたちね」
最前列に立っていた年若い女性が、ユウキに声をかけた。
「やっぱり魔法なの? それとも何か仕掛けが?」
予想通りの質問である。ユウキと侑子の視線が、一瞬だけ絡み合う。
「企業秘密です、お嬢さん」
とびきり甘い営業スマイルと共に、長いまつ毛を主張させるようにウインクを決めながら、ユウキは彼女に答えた。女性はぱっと顔を赤面させると、頷いた。
「楽しんでいただけたでしょうか?」
「もちろん。また観に来るわ」
ユウキはまた新たな常連客を獲得した。侑子はふうと安堵の息をついた。
客に手を振ったり握手をしたりと、存分に愛想を振りまいているクマたち。それぞれ場所は違うが、お揃いの小さなボタンが縫い付けられているのを、侑子は遠目で確認した。予想よりも激しく動けていたので、外れていないか少し心配だったが、問題なさそうだ。
一般的なシャツボタンと同じ大きさの、黒い四ツ穴ボタン。それは防視効果が付与されたものだった。そのおかげであみぐるみが帯びている侑子の魔力の気配は、少しも見えなくなっていた。
侑子はいつもの噴水広場で、舞い歌うユウキを見守っていた。
この世界に来てから、既に何度もこの広場での彼の曲芸を観客として観てきたが、今日は初めて観た時のように少々緊張していた。
それには理由がある。
いつもならユウキが操っているマリオネットの姿はそこにない。
代わりに台の上で彼の歌声に呼応して踊るのは、あみぐるみたちだった。
青、黄、白の色違いの三匹のクマたちは、それぞれ身体の異なる部位にユウキの衣装とお揃いの鱗を煌めかせ、トコトコとステップを踏み、くるりとターンを決めていく。
いつもなら“才”により別人の声に次々変わるユウキの歌に夢中になる観客たちの目は、今日は漏れなく三体のクマに注がれていた。
「なんだあれ……? ロボット?」
「ただのぬいぐるみに見えるけど……」
訝しげに呟く声が、度々耳に入る。
侑子ははらはらしていたが、対照的にユウキはいつもより楽しげだった。
マリオネットを操作棒で操る手間がないからだろうか。手振りも加え、自らも踊るようにして歌っていた。
やはり声は次々と老若男女様々な他人のものに変わっていく。
侑子はあみぐるみの様子に気を取られつつ、今日も歌うユウキの表情を確認していた。やはり変身館で歌う彼とは、別人のように見えた。
やがて歓声と拍手で、その場が騒がしくなる。ユウキが観客たちに深く頭を垂れて、最後の口上を述べているのが見えた。
三体のクマたちは、そんな彼を真似るようにお辞儀をしている。真ん中の一体が頭の重さに耐えられずに前方に倒れた。観客たちから明るい笑い声が漏れた。
「素敵な助手さんたちね」
最前列に立っていた年若い女性が、ユウキに声をかけた。
「やっぱり魔法なの? それとも何か仕掛けが?」
予想通りの質問である。ユウキと侑子の視線が、一瞬だけ絡み合う。
「企業秘密です、お嬢さん」
とびきり甘い営業スマイルと共に、長いまつ毛を主張させるようにウインクを決めながら、ユウキは彼女に答えた。女性はぱっと顔を赤面させると、頷いた。
「楽しんでいただけたでしょうか?」
「もちろん。また観に来るわ」
ユウキはまた新たな常連客を獲得した。侑子はふうと安堵の息をついた。
客に手を振ったり握手をしたりと、存分に愛想を振りまいているクマたち。それぞれ場所は違うが、お揃いの小さなボタンが縫い付けられているのを、侑子は遠目で確認した。予想よりも激しく動けていたので、外れていないか少し心配だったが、問題なさそうだ。
一般的なシャツボタンと同じ大きさの、黒い四ツ穴ボタン。それは防視効果が付与されたものだった。そのおかげであみぐるみが帯びている侑子の魔力の気配は、少しも見えなくなっていた。