十二月⑥

文字数 1,121文字

 光の粒が集まってきたところで、先程耳にしたばかりの声にドアの向こうから名を呼ばれた。

「ユーコちゃん、いる?」

「あ。はい」

 侑子がドアの方を振り向くと、戸口にアミが立っていた。

黒い外套を脱いだ白シャツ姿だったので、花色の髪とのコントラストが際立っている。

侑子はその髪色の美しさと、アミの瞳の色を見てあ、と思わず声を出す。

「アミさんの目の色、この石そっくり」

 光の粒を観察することは叶わなかった侑子の手の中に、小さな鉱石が転がっていた。それは淡いラベンダー色をしていて、彼女の言葉どおりアミの瞳の色と同じ色をしていたのだった。

「アメジスト」

 侑子の傍らに来て彼女の手を覗き込んだアミは微笑んだ。

「こういう薄い紫色のものは、ラベンダーアメジストとも呼ぶんだよ。うちの家族はこの色の目をしてる者が多いんだ」

「瞳の色って遺伝なんですか」

 こちらの世界の人々が色とりどりの瞳をしていることを、てっきり魔法でどうにかしているものだと考えていた侑子は小さく驚いた。

「遺伝が多いんじゃないかな。必ず一族みんなが同じ色ってわけではないけど。そうか、向こうの世界では違うのかな」

 アミの言葉に侑子は更にはっとする。

「私のこと、並行世界からきたって知っているんですね」

「ああ。うん。ジロウさんから聞いてる。俺はほら、ユウキと一緒にやっていくし。君とも接点が多くなるだろう」

 侑子が並行世界からやってきたという事情は、あえて人に知られることのないようにされていた。

機密事項というほど厳密に隠されているわけでもなかったが、多くの人にとって侑子はジロウの親戚の子供ということになっている。

事情を知っているのは普段から侑子と長い時間を過ごす人だけだった。

「そうなんですね」

「今は魔法の練習をしてたの?」

 事情を知っている人と話すときにはやはり気持ちが楽になる。侑子は頷くと変換後の鉱石でいっぱいになった菓子箱をアミに見せた。

「とにかく数をこなそうと思って」

「なるほど」

 頑張ってるね、と笑ったアミに侑子は先程の現象について訊ねてみようと思い立った。

 侑子の説明を聞いたアミは、ふうんと軽く二度三度頷いた後にこう答えたのだった。

「それは確かに珍しい現象だね」

「もう一回やってみます」

 新たに小石を物質変換させてみる。しかし侑子の手の中に集まった光の粒は今度は全て一瞬の後に綺麗に弾け飛んで消えてしまった。

「あまり頻繁に起こることではないんだよ。そうだな。ユーコちゃんは並行世界からやってきた来訪者。だからあの伝承と同じ事が起こったってことかな」

「伝承?」

「昔話として国に伝わる話があるんだ。『逆さ雪』っていう話でね」

 アミはサンルームの椅子に腰掛けて、侑子に語って聞かせた。
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