二体②
文字数 1,160文字
侑子達三人がいる側に、白い布で覆われた何かがあった。
それの存在に侑子が気づいた瞬間、彼女の心臓が早鐘を打ち始める。
――あれは何?
わざわざ目隠しをされているようだ。
二分割された片方の部屋の中央に、敢えて侑子の注意を引くように据えられた何か。
それを隠す布は白いビロードで、場違いに上質な光沢を放っている。
――気持ち悪い
ブンノウからも、シグラからも魔力を感じた。
ブンノウの魔力は、ほぼ枯渇寸前までに消耗している。そんな彼のものと同じ色を、侑子は布の下から感じ取っていた。
――違う。違う、魔法じゃない。あれは何?
濁りのない空色に、血豆のような赤黒さ。二色が混ざった先に見える、艶のない紫。
底の見えない恐怖に飲み込まれそうだった。
「あれが怖いですか?」
侑子の視線はもはや動かなかった。
布に隠された向こう側を暴こうと、凝視したまま震えている。
「そんなに怯えてもらいたくはないのですけど。あなたにはこれから、彼らと過ごす時間をとってもらう必要があるのですから」
すぐ背後にブンノウの気配を感じた。
彼の両手が、侑子の肩に乗せられる。
「ああ、そうか。見えないから怖いのですね。人は見えない物に対して、無意識に恐怖を抱きがちだ。私にはよく分からない感覚なので、その気持ちに寄り添うことはできないのですが」
微かに笑ったようだった。声が軽くなった。
しかし侑子は、ブンノウの言葉に反応を返すことは出来ない。
布の向こうに意識を引っ張られたまま、動かすことが出来なかった。
「あなたを怖がらせるために、布で覆ったわけではないのですよ。ただ単にお披露目するため、直前まで隠しておこうと思い立っただけなのです。よくあるでしょう? ジャーンって出すの…………いい頃合いですね。シグラ、見せて差し上げましょう」
「や……」
やめてと言いかけた侑子の口は、それ以上開かなかった。
布端を摘んだ、シグラの細い指。
彼女の手が、実際にゆっくり動いたのか、侑子の脳が映像をスローモーションに処理したのかは分からない。
取り払われた布の向こうを捉えた瞬間を、侑子は今後ずっと忘れることはないだろう。
「青い」
一つの色を表す形容詞を、口にした。
小さいものと、大きいもの。
小さいものは細く、大きいものは太かった。
――ギザギザの歯
――つり上がった大きな目
――四肢と五本の指
――透明な水かき
青いグラデーションを成すのは、無数の鱗だった。
「あなたの服と、おそろいね」
シグラが呟いた。感情のない声だった。
「ザゼルが連れて来たあなたの姿を確認した時、さすがに驚いたわ」
侑子は目の前の二体を、ただひたすら見つめていた。
自分が身につけているステージ衣装を覆い尽くす、青い硝子の鱗。
それと瓜二つの鱗で全身を煌めかせていたのは、半魚人だった。
二人の半魚人が、そこにいた。
それの存在に侑子が気づいた瞬間、彼女の心臓が早鐘を打ち始める。
――あれは何?
わざわざ目隠しをされているようだ。
二分割された片方の部屋の中央に、敢えて侑子の注意を引くように据えられた何か。
それを隠す布は白いビロードで、場違いに上質な光沢を放っている。
――気持ち悪い
ブンノウからも、シグラからも魔力を感じた。
ブンノウの魔力は、ほぼ枯渇寸前までに消耗している。そんな彼のものと同じ色を、侑子は布の下から感じ取っていた。
――違う。違う、魔法じゃない。あれは何?
濁りのない空色に、血豆のような赤黒さ。二色が混ざった先に見える、艶のない紫。
底の見えない恐怖に飲み込まれそうだった。
「あれが怖いですか?」
侑子の視線はもはや動かなかった。
布に隠された向こう側を暴こうと、凝視したまま震えている。
「そんなに怯えてもらいたくはないのですけど。あなたにはこれから、彼らと過ごす時間をとってもらう必要があるのですから」
すぐ背後にブンノウの気配を感じた。
彼の両手が、侑子の肩に乗せられる。
「ああ、そうか。見えないから怖いのですね。人は見えない物に対して、無意識に恐怖を抱きがちだ。私にはよく分からない感覚なので、その気持ちに寄り添うことはできないのですが」
微かに笑ったようだった。声が軽くなった。
しかし侑子は、ブンノウの言葉に反応を返すことは出来ない。
布の向こうに意識を引っ張られたまま、動かすことが出来なかった。
「あなたを怖がらせるために、布で覆ったわけではないのですよ。ただ単にお披露目するため、直前まで隠しておこうと思い立っただけなのです。よくあるでしょう? ジャーンって出すの…………いい頃合いですね。シグラ、見せて差し上げましょう」
「や……」
やめてと言いかけた侑子の口は、それ以上開かなかった。
布端を摘んだ、シグラの細い指。
彼女の手が、実際にゆっくり動いたのか、侑子の脳が映像をスローモーションに処理したのかは分からない。
取り払われた布の向こうを捉えた瞬間を、侑子は今後ずっと忘れることはないだろう。
「青い」
一つの色を表す形容詞を、口にした。
小さいものと、大きいもの。
小さいものは細く、大きいものは太かった。
――ギザギザの歯
――つり上がった大きな目
――四肢と五本の指
――透明な水かき
青いグラデーションを成すのは、無数の鱗だった。
「あなたの服と、おそろいね」
シグラが呟いた。感情のない声だった。
「ザゼルが連れて来たあなたの姿を確認した時、さすがに驚いたわ」
侑子は目の前の二体を、ただひたすら見つめていた。
自分が身につけているステージ衣装を覆い尽くす、青い硝子の鱗。
それと瓜二つの鱗で全身を煌めかせていたのは、半魚人だった。
二人の半魚人が、そこにいた。