32.世界ⅰ想い人

文字数 720文字

 金曜日の夕方。
部活を終えた侑子は、高校の最寄り駅前で待ち合わせをしていた。

 夏至を目前に控えた夕方は、まだまだ昼間のように明るい。

「お待たせ! ごめんね。待った?」

 改札から小走りでこちらへ向かってくる愛佳が見えた。彼女の通う高校は、この駅から二駅隣にあった。

「大丈夫。私が早く着きすぎたの。今郵便局行ってきたところ。ちょうど良かったよ」

「切手?」

「うん」

 愛佳は郵便局という単語から、すぐに侑子がどんな用を済ませてきたのか察した。

切手を買いに行っていたのだろう。
侑子の切手の消費スピードは尋常じゃなく早い。その理由も、よく承知している。

「今日は一円とか二円切手じゃないよ。綺麗なの出てたから、それにした」

 侑子が鞄から取り出したそのシートを目にして、愛佳はおお、と声を出す。

「八十二円? いつもより随分奮発したね。サイズも大きい」

 侑子は笑った。

 ほぼ毎日日記のようなペースでユウキへの手紙を出すので、切手代節約のためにいつもは一円や二円などの少額切手を貼るのだ。
未使用の切手であれば金額不問で届くのは、どういう道理なのか分からない。
しかし学生の身分ではありがたかった。

「ユウキちゃん、喜んでくれるといいね」

 愛佳の言葉に、侑子はにっこり微笑む。

そんな従姉妹の顔を見て、愛佳は少しだけ複雑な心境になるのだった。

「愛ちゃん、どこのお店行きたいの?」

 今日の待ち合わせの目的は、愛佳の買い物に付き合うことだった。

 この週末、彼女は恋人と出かける予定になっている。そこで着る服選びに付き合って欲しいと言われていたのだった。

「ゆうちゃん、ありがとね。そうだなぁ。駅ビルの中見に行っていい?」

 腕を引いて、愛佳は目的の場所へと侑子を誘っていった。



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