近習②

文字数 1,341文字

「いつから気づいていましたか」

 アミの声音は、少しも変化しなかった。

「ん? 最初にあんたのこと見たときからかな。本当にその髪と目の色してんだなって、思ったよ」

 ヤヒコはただ素直に、質問に対して答えただけだ。答え終えてから、ユウキと紡久の表情を見て、眉を寄せる。

「なんて顔してるんだ」

「彼らは知らなかったんですよ。俺の素性を」

「ああ、そういうこと」

 ヤヒコはすぐに飲み込んだようだ。

「メムの民とは、そんなことまで知識として持っているものなんですね。この国の歴史や、理についてだけでなく……」

「それがメムが担った役割の一つでもあるからな――おい、大丈夫か。ついてきてる?」

 呆然とするユウキの肩を、ヤヒコが叩いた。

「どういうこと? アミ。王の近習って?」

 説明してやれよ、と表情で促すヤヒコに、アミは頷いた。

「俺の本名は、モノベ・タカオミ。ヤヒコさんの言う通り、近習として王の側近くに仕えてきた」

 そしてアミは語り出した。

七年前、侑子がこの世界にやってきたことを察知した前王から、彼女を近くで見守るように密命を受けたこと。そのために、ユウキの専属ギタリストとしての職を獲得したことを。

「お前、親族は殆ど神職だって言ってたな……」

「そうだよ。それは真実。俺の一族は代々王の側で仕えてきた、神職だったから――この髪と目の色は、その一族特有のものなんだ。似たような色に染める人もいるけど、正確に同じ色にはできないはずだ。ヤヒコさんは知っていたんだな、そして鋭い」

「皆が皆じゃないけどさ、特別な色ってあるんだよ。一族特有の色が。古くから特別な任を代々任されてきた家とかに多い。現代じゃ誰も気にしちゃいないだろうけど、メムはちゃんと記録してるんだぜ」

 知らなかったな……と呟いたユウキは、アミの紫色の瞳を見た。
気に留めたことなどなかったが、確かに同じ色の知人はいなかった。春に咲く小さな菫に似た、鮮やかで瑞々しい紫をしているのだ。

「アミ・レゼーマは、偽名か?」

「芸名として自分で考えたんだ。ギタリストとしてやっていく上での。偽名として考えたことは、一度もない」

 紡久はその時気づいた。
表情に動きがないと思っていたアミの顔が、僅かに歪んだように見えた。

「騙していてすまなかった。……打ち明けるわけに、いかなかった。でももう、明らかにしてもいいはずだったんだな。この密命は、前王から言い渡されたものだから。……ユウキの側でギターを弾くの、とても楽しかったんだ。この気持ちは本当。偽ったことは一度もないよ」

 顎に手を当てながら、ユウキは軽く息を吐き出した。

「今後は、どっちの名で呼べばいい?」

 アミがすぐに応えなかったので、ユウキは言葉を続けた。

「これからもギタリストは続けるんだろ? だってユーコちゃんは俺の側にいるんだし、紡久くんだってそうだ。お前の任務がまだ継続されていたとしても、結局今までと同じ場所にいるしかないじゃないか」

 ヤヒコが笑った。
紡久はほっとして、こわばっていた肩を緩めた。

大丈夫だろう。一つ肩書が明らかになったところで、二人の関係性に変化が生まれるはずはないのだ。それだけの信頼関係は築かれている。紡久もずっと側で見てきた。

「アミでいい」

 細められた菫色の瞳が、嬉しげに光った。
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