25.近習

文字数 1,600文字

 大の男ばかりが四人並ぶと、流石にテントの中は手狭になる。
ヤヒコはわざとらしく溜息をついたが、その顔は面白そうに口角が上がっていた。

「寝苦しいと思うが、勘弁してもらうよ」

「構いません」

 応えたのはアミだった。

「女子供と男たちで分けるのが妥当ですよ。ユウキには王都に着くまで、我慢してもらいましょう」

「アミ!」

 バツが悪そうな様子のユウキに、他の者は笑った。からかい半分、祝福半分からの笑みだった。

侑子とユウキが再会を果たしてから半日、七人は王都への旅を共にすることに決め、移動の合間に諸々の情報を交換し合っていた。

「メムの人々は、いつも移動するときは山中を通るのですか?」

 アミはメム人に関して興味津々のようで、昼間から数々の質問をメムの三人に浴びせていた。

「まぁ、山中移動が多いな。メムだけが移動できる場所って、結構多いんだ。そういうルートを動くのが一番早い」

「なるほど」

「言っておくが、不用意にルートを教えることはできない。ま、教えたって覚えられないと思うけど」

「分かっています」

 ヤヒコは三人と打ち解けるのも早かった。

「しかし、これもめぐり合わせかな。まさかもう一人の来訪者とも会えるなんて」

 紡久は曖昧に笑った。
つい先程、聞いたばかりだったのだ。来訪者と天膜との関係、古来からこの国においてのみ成立していた、不思議な理の話を。

「今日までこの国が持ちこたえて来られたのは、ツムグのおかげってことだよな。拝んでおかないと」

「やめてください」

 そういう冗談苦手ですと、紡久は首を振った。

「無自覚でも、知らなくても、実際そうなんだよ。それに君は、使える魔力を市民のために目一杯使っていたって言うじゃないか」

「微々たるものです。それに俺がどれだけ魔力を使ったところで、現状が良くなっているとも思えない」

 アミに勧められた携帯食を、モソモソと齧る。

紡久はこの二年の間に大分様変わりした王都の風景を、思い浮かべていた。

ジロウの屋敷跡のように、新しい住居や建造物が作られた場所は、まだ少ない。
瓦礫の撤去を進めるのがやっとで、まだ更地のまま手が入らない土地が沢山あった。

――侑子ちゃんが今の王都を見たら、びっくりするだろうな……

 荒廃しているわけではないが、随分さっぱりしてしまった懐かしい街の風景は、彼女を悲しませるだろうか。
この二年間、街の変化を体感してきた紡久は、悲しみを帯びた無力感に苛まされてきた。

「これから良くなるさ」

 カラリとしたヤヒコの声が、テントの中を通り抜けた。言葉に少しの疑いも持っていない響きだった。

「ユウコが来たからってだけじゃない。俺たちも動く」

「天膜破壊の犯人について、何か掴めたのですか」

 意味深な含みを持ったヤヒコの言葉に、アミはすぐに反応を示す。そんな花色の髪の男に、ヤヒコはニヤリと笑った。

「メムの民は、何も全員が山中を移動して生きてるわけじゃない。中には移動生活が向かない者や、好まない者もいる。そういった奴らは、普通にヒノクニの市街地で、魔力ありの人間に混ざって生活しているんだ――知らなかっただろう? そういう仲間からの情報だ……ミウネ・ブンノウが目撃されてる。ユウコがやってきた廃墟近く、ミネコさんが最後に扉を開けた場所付近だ。奴らは扉が再び開かれたことを、また嗅ぎつけた。そして、俺たちの狙い通り、またノコノコとその場所へやってきたんだ」

 ヤヒコの口から出てきた、かつて空彩党に属していた研究者の名。それを聞いたその場の三人の表情に、緊張が走った。

「捕まえてやる。天膜破壊を止める。何が狙いなのか分からないが、とにかく身動き取れない程度には、グルグル巻きにしておいてやるさ」

 飄々と語るヤヒコは、最後にアミの方を見て、ユウキと紡久にとっては驚くべき発言をしたのだった。

「それで、奴らを捕まえた後のことだけど。あんたに連絡すれば早そうだよな。 王の近習さんだろ?」

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