ロボット③
文字数 1,694文字
「こいつは自分の使命を、ちゃんと理解してる」
誇らしげに言い放ったアオイの言葉に、頷いたのはロボットだけだった。
「使命?……作られた目的ってことか?」
この騒動の最中、初めて口を開いたサクヤの言葉だった。彼もユウキと同様、変身館の歌歌いの一人だったが、普段は口数の少ない男だった。
「このロボット、救助ロボットの試作だったよな」
ユウキが言うと、ロボットが頷いた。
「そうだよ。救助ロボット。俺は試作と思って作ってないけどな。いつだって本気だ」
アオイのこの言葉に、ロボットはどことなく嬉しげに笑ったように、侑子は見えた。見間違いだろうか。
ロボットが動く度に、ウィーンという機械音が聞こえた。電気は通じていないはずだが、この音はどういう仕組みで鳴っているのだろうか。あみぐるみたちの発する、不思議な声と同じようなものなのだろうか。
「ここのところ何もないけどさ。いつまた災害が起こるか、わからないだろう」
アオイが説明対象にしたのは、侑子だった。侑子がこの世界に戻ってきてから、まだ一度も自然災害は発生していない。
「倒壊した建物の下から逃げそびれた人や、土砂崩れに巻き込まれた人……そういう人の救助に活用できたらと思ってるんだ。他にも、復興のための人手が足りない場所を手伝ったり、力仕事できる家族がいない家庭を助けたり……」
「需要はあるだろうな」
ジロウが言った。
「今まで魔法で解決できたことの殆どは、今ではとにかく人の手でなんとかしなきゃいけないから」
「それにさ、ただ機械化するだけじゃ、味気ないだろ? こんな風に俺達と同じ様な形してて、尚且つ見た目にも愛嬌があったら、それだけでもう、楽しくなるじゃないか」
アオイの声は高くなった。
隣に立つロボットは、拍手をしていた。カシャンカシャンと、金属が軽くぶつかり合う音が響く。
「手助けついでに、魔力も底上げしてくれるロボット――俺はこれがやりたいんだよ」
カシャンカシャン
ロボットの拍手に、あみぐるみ達が真似るように手を打ち合わせていた。ただし無音だ。綿を詰めた毛糸同士をぶつけても、音は鳴らない。
「ただ、ロボットを思うように動かすのって、思ってた以上に難しくて。ユーコちゃんがあみぐるみにかけてた魔法が使えたらなぁって、ずっと切望してたんだよ。……やっと実現したんだ」
でも、とアオイは続ける。
「このロボット、いっそあみぐるみみたいに、もっと単純な構造にして、滑らかに動くようにして流通させるのは簡単だと思うんだ。けど、動力がユーコちゃんの魔法だってことは、あまり大っぴらにしないほうがいいんだろ?」
紡久と侑子の視線が、自然とぶつかった。
人々の魔力が枯渇や回復不良に陥っている中、無属性の魔力だけが枯渇しないという事実は、王府と平彩党の働きによって、相変わらず隠されているのだ。
「だったらかえって、ロボット的な動きを残したままの方が、外で使いやすいんじゃないか? 科学者が頑張って開発した、“機械”だとしか思われないよ。魔力の気配は、防視アイテムを部品に混ぜてしまえば消せるだろうし」
アオイの手が、ロボットの肩に回される。ロボットの方もアオイに対して同じようにしたので、二人は仲良く肩を組んだ形になる。
「見ろよ。こんなに楽しい気分にさせてくれるんだぜ? その上、力持ちで、手先も器用で、働き者」
「なるほど。ユーコちゃんの安全を考慮した上で、あえて機械らしさを残すべきってことか。それは絶対に、そうしてもらわないとダメだな」
ユウキの声は強かった。
「分かってる。このロボットは、町中で、被災地で、人の真ん中でこそ力を発揮するんだろうから」
幼馴染の言葉を受けてのアオイの返答は、真剣だった。
「色んなタイプを作るよ。枠組みだけだったら、すぐに出来る。……ユーコちゃん、また力を貸してもらえる?」
「もちろんだよ。手伝わせて欲しい」
頷いた侑子の手を、ロボットの両手が包み込んだ。金属の冷たさが伝わってきたが、脈打つようなぬくもりも感じた。
――今、私の魔力は副産物になったんだろうか
侑子はふと、逆さ雪がみえないかと、目を凝らしてみるのだった。
誇らしげに言い放ったアオイの言葉に、頷いたのはロボットだけだった。
「使命?……作られた目的ってことか?」
この騒動の最中、初めて口を開いたサクヤの言葉だった。彼もユウキと同様、変身館の歌歌いの一人だったが、普段は口数の少ない男だった。
「このロボット、救助ロボットの試作だったよな」
ユウキが言うと、ロボットが頷いた。
「そうだよ。救助ロボット。俺は試作と思って作ってないけどな。いつだって本気だ」
アオイのこの言葉に、ロボットはどことなく嬉しげに笑ったように、侑子は見えた。見間違いだろうか。
ロボットが動く度に、ウィーンという機械音が聞こえた。電気は通じていないはずだが、この音はどういう仕組みで鳴っているのだろうか。あみぐるみたちの発する、不思議な声と同じようなものなのだろうか。
「ここのところ何もないけどさ。いつまた災害が起こるか、わからないだろう」
アオイが説明対象にしたのは、侑子だった。侑子がこの世界に戻ってきてから、まだ一度も自然災害は発生していない。
「倒壊した建物の下から逃げそびれた人や、土砂崩れに巻き込まれた人……そういう人の救助に活用できたらと思ってるんだ。他にも、復興のための人手が足りない場所を手伝ったり、力仕事できる家族がいない家庭を助けたり……」
「需要はあるだろうな」
ジロウが言った。
「今まで魔法で解決できたことの殆どは、今ではとにかく人の手でなんとかしなきゃいけないから」
「それにさ、ただ機械化するだけじゃ、味気ないだろ? こんな風に俺達と同じ様な形してて、尚且つ見た目にも愛嬌があったら、それだけでもう、楽しくなるじゃないか」
アオイの声は高くなった。
隣に立つロボットは、拍手をしていた。カシャンカシャンと、金属が軽くぶつかり合う音が響く。
「手助けついでに、魔力も底上げしてくれるロボット――俺はこれがやりたいんだよ」
カシャンカシャン
ロボットの拍手に、あみぐるみ達が真似るように手を打ち合わせていた。ただし無音だ。綿を詰めた毛糸同士をぶつけても、音は鳴らない。
「ただ、ロボットを思うように動かすのって、思ってた以上に難しくて。ユーコちゃんがあみぐるみにかけてた魔法が使えたらなぁって、ずっと切望してたんだよ。……やっと実現したんだ」
でも、とアオイは続ける。
「このロボット、いっそあみぐるみみたいに、もっと単純な構造にして、滑らかに動くようにして流通させるのは簡単だと思うんだ。けど、動力がユーコちゃんの魔法だってことは、あまり大っぴらにしないほうがいいんだろ?」
紡久と侑子の視線が、自然とぶつかった。
人々の魔力が枯渇や回復不良に陥っている中、無属性の魔力だけが枯渇しないという事実は、王府と平彩党の働きによって、相変わらず隠されているのだ。
「だったらかえって、ロボット的な動きを残したままの方が、外で使いやすいんじゃないか? 科学者が頑張って開発した、“機械”だとしか思われないよ。魔力の気配は、防視アイテムを部品に混ぜてしまえば消せるだろうし」
アオイの手が、ロボットの肩に回される。ロボットの方もアオイに対して同じようにしたので、二人は仲良く肩を組んだ形になる。
「見ろよ。こんなに楽しい気分にさせてくれるんだぜ? その上、力持ちで、手先も器用で、働き者」
「なるほど。ユーコちゃんの安全を考慮した上で、あえて機械らしさを残すべきってことか。それは絶対に、そうしてもらわないとダメだな」
ユウキの声は強かった。
「分かってる。このロボットは、町中で、被災地で、人の真ん中でこそ力を発揮するんだろうから」
幼馴染の言葉を受けてのアオイの返答は、真剣だった。
「色んなタイプを作るよ。枠組みだけだったら、すぐに出来る。……ユーコちゃん、また力を貸してもらえる?」
「もちろんだよ。手伝わせて欲しい」
頷いた侑子の手を、ロボットの両手が包み込んだ。金属の冷たさが伝わってきたが、脈打つようなぬくもりも感じた。
――今、私の魔力は副産物になったんだろうか
侑子はふと、逆さ雪がみえないかと、目を凝らしてみるのだった。