脱皮④

文字数 584文字

 曲芸はユウキの舞と共に始まった。

音源を流すためのスピーカーも、電源代わりの魔石も今日は持ってきていない。
舞は広場に聞こえる生活音の中で、ただ繰り広げられる。

こんな試みも初めてで、侑子はもちろん、常連客達も目を瞠るようにして彼の動きを追い続けた。

 衣擦れの音と、ユウキの手足が風を切る音。
硝子の鱗がぶつかる音。時折深く呼吸する息遣いが聞こえた。

その音の一つ一つが生々しく、目に見えないはずなのに、熱を感じさせた。

 彼の身体が生み出す音は、不可解な引力を持っている。
目を瞠る軽業的な動きではないはずなのに、指先の動き一つでさえ意味を持ったように、迷いのない線を描くのだ。
夢幻のようだった以前の舞の印象を、肉体的なものへと置き換えていく。

「あら? ここでいつも歌ってる、お兄さんよね?」

 舞に見覚えがあったのだろうか。
通りかかった子供を連れた母親が足を止めた。

彼女に手を引かれて歩いていた少女が、侑子の足元でリズムを取って小刻みに体を揺するあみぐるみに、はしゃいだ声を上げる。

「動物さんが踊ってる!」

 無邪気な笑い声は遮られることなく通りに響き、通行人達の視線を集め、そのままユウキに注がれていった。

いつしかいつもと変わらないほどの群衆が、その広場に集まっている。

舞の終わりを告げる明確な合図はなかったが、ユウキが動きを止めて静かに頭を垂れると、自然と拍手が沸き起こった。
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