50.若き科学者
文字数 1,278文字
見せかけの動力装置を取り付けるアオイの横で、侑子が神妙な顔つきでロボットに触れている。
彼女はステージ衣装の上に作業着を羽織っており、顔には普段よりも濃い化粧が残ったままだ。研究室の白い照明に照らされて、侑子が僅かに身じろぐだけで、衣装も顔の上のラメもきらきらと輝いた。
「そろそろ終わるな」
侑子とアオイ達から少し離れた休憩スペースで、紡久は出されたコーヒーを片手に、ぼんやりと作業風景を眺めていた。
そんな彼に話しかけてきたのは、同じくカップを持ったザゼルだった。
「ロボットはあれで全部ですか?」
「この研究所ではね。ユーコちゃんの魔法をかけるだけだったら、ものの数分で済むんだけど。アオイのあの手の込んだ小細工が、地味に時間かかるんだよな」
笑ったザゼルの瞳は淡い空色で、研究室の白い光の元では、いつもより白っぽく、無機質に映った。
「仕方ないですよね。ものの数分で終わったら、流石に怪しまれるだろうし」
紡久は再び、作業をする侑子達の方へ視線を戻した。
二人が作業を行う周囲に、大学の研究員数名と、ユウキとアミが見守るように立っている。
「君も来訪者と聞いたけど、ユーコちゃんのような魔法は使えないの?」
突然の質問だったが、紡久は視線を動かすことなく頷いた。
「使えませんよ。俺はごく普通の魔法を、普通に使うことしか」
「その普通が、今や普通じゃないんだけどな」
しばらくの無言の後、ザゼルが再び口を開いた。
「透明な魔力っていうのは、どう特別なんだろうな」
「さあ……」
「魔法を出してる時に、自覚はないものなの? 他の四属性の魔法を使っている時とは、別の感覚があるとか」
「特には。魔法を使う時、何をしたいのか、ただイメージを持つだけです。四種類の魔石を思い浮かべたり、出したい物の形を考えたり……透明な魔力を特別意識しながら使ったことはないです」
「ふうん。魔法を出す時の感覚は、俺達と変わらないってことかな」
「そうじゃないですかね。よく分からないけど」
その時紡久は、そういえばザゼルとこんなふうに二人で話したことは、今までなかったな、と思い当たった。
ザゼルはアオイが大学から王都へ戻ってきた頃からの付き合いであり、アオイとよく一緒にいたので、面識は以前からあったのだが。
横にいたアオイが普段からよく喋る男だったので、勝手に口数の少ない人物なのだと思いこんでいた。しかしそうでもないようだ。
「無属性魔法についての研究ってのも、面白そうだ」
そう言って笑ったザゼルの視線は、向かい合った紡久の頭頂よりも、少し上を見ていた。
紡久は防視道具を身に着けているので、魔力は見えないはずだ。
しかし空色の瞳は、そんな紡久の確信を揺るがせるほどにじっと、彼から立ち上る透明な魔法の気配を見つめているようだった。
落ち着かなくなって、紡久は椅子に座り直した。
「今度俺の研究に付き合ってよ」
耳に残る声だ。
頷くかどうか躊躇する前に、アオイの「終わったぞ」という声が聞こえてくる。
「行きましょう」
なぜほっとしているのか分からないまま、紡久は立ち上がって仲間の方へと足を向けていた。
彼女はステージ衣装の上に作業着を羽織っており、顔には普段よりも濃い化粧が残ったままだ。研究室の白い照明に照らされて、侑子が僅かに身じろぐだけで、衣装も顔の上のラメもきらきらと輝いた。
「そろそろ終わるな」
侑子とアオイ達から少し離れた休憩スペースで、紡久は出されたコーヒーを片手に、ぼんやりと作業風景を眺めていた。
そんな彼に話しかけてきたのは、同じくカップを持ったザゼルだった。
「ロボットはあれで全部ですか?」
「この研究所ではね。ユーコちゃんの魔法をかけるだけだったら、ものの数分で済むんだけど。アオイのあの手の込んだ小細工が、地味に時間かかるんだよな」
笑ったザゼルの瞳は淡い空色で、研究室の白い光の元では、いつもより白っぽく、無機質に映った。
「仕方ないですよね。ものの数分で終わったら、流石に怪しまれるだろうし」
紡久は再び、作業をする侑子達の方へ視線を戻した。
二人が作業を行う周囲に、大学の研究員数名と、ユウキとアミが見守るように立っている。
「君も来訪者と聞いたけど、ユーコちゃんのような魔法は使えないの?」
突然の質問だったが、紡久は視線を動かすことなく頷いた。
「使えませんよ。俺はごく普通の魔法を、普通に使うことしか」
「その普通が、今や普通じゃないんだけどな」
しばらくの無言の後、ザゼルが再び口を開いた。
「透明な魔力っていうのは、どう特別なんだろうな」
「さあ……」
「魔法を出してる時に、自覚はないものなの? 他の四属性の魔法を使っている時とは、別の感覚があるとか」
「特には。魔法を使う時、何をしたいのか、ただイメージを持つだけです。四種類の魔石を思い浮かべたり、出したい物の形を考えたり……透明な魔力を特別意識しながら使ったことはないです」
「ふうん。魔法を出す時の感覚は、俺達と変わらないってことかな」
「そうじゃないですかね。よく分からないけど」
その時紡久は、そういえばザゼルとこんなふうに二人で話したことは、今までなかったな、と思い当たった。
ザゼルはアオイが大学から王都へ戻ってきた頃からの付き合いであり、アオイとよく一緒にいたので、面識は以前からあったのだが。
横にいたアオイが普段からよく喋る男だったので、勝手に口数の少ない人物なのだと思いこんでいた。しかしそうでもないようだ。
「無属性魔法についての研究ってのも、面白そうだ」
そう言って笑ったザゼルの視線は、向かい合った紡久の頭頂よりも、少し上を見ていた。
紡久は防視道具を身に着けているので、魔力は見えないはずだ。
しかし空色の瞳は、そんな紡久の確信を揺るがせるほどにじっと、彼から立ち上る透明な魔法の気配を見つめているようだった。
落ち着かなくなって、紡久は椅子に座り直した。
「今度俺の研究に付き合ってよ」
耳に残る声だ。
頷くかどうか躊躇する前に、アオイの「終わったぞ」という声が聞こえてくる。
「行きましょう」
なぜほっとしているのか分からないまま、紡久は立ち上がって仲間の方へと足を向けていた。