VS邪神サズァン 5

文字数 1,212文字

 ムツヤは全神経を集中させ、右腕にありったけの力を込める。

 剣を弾き飛ばし、そのままサズァンへ一直線に手を伸ばした。

「がっ」

 サズァンの口から息が漏れ出る。ムツヤは剣が肉を斬り裂く感触を手に感じ取った。

 ムツヤの魔剣はサズァンの胸に深々と刺さり、貫いている。

「どうやら、私の負けのようね……」

 先程までの剣幕が顔から取れ、寂しげで、優しい笑顔を向けるサズァン。

「サズァン様……」

 そんな彼女をムツヤは目を伏せて見ていた。

「ムツヤ、あなたに嫌な役目を押し付けてごめんね」

 そんな事を言うと、サズァンは前のめりに倒れ、ムツヤにもたれかかる。

 最後の力を出して、ムツヤを抱きしめていた。

「私は自分が正しいのか間違っているのか分からなかったわ。でも……、誰かに止めてほしかった……」

 ふふっと血を吐きながらサズァンは言う。

「ムツヤ、やっとあなたに触れられたわ」

「サズァン様!!」

 そう言われ、ムツヤの目から涙が流れ始める。

「さようならムツヤ。みんな、どうかムツヤをよろしくね……」

 サズァンの体がどんどん透き通っていき、光となり消えてゆく。

 そして、完全に消えてしまい。カランと音を立て突き刺さっていた魔剣が地面へ落ちる。

 それと同時に、激しい揺れが起きた。天井が崩れ始めている。

「え、何っ!? 地震!?」

 ルーが慌て、周りを見る。

「う、うわっ!!」

 ユモトは目の前に落ちてきた壁を見て後ずさった。

「塔の主様(あるじさま)が居なくなったからか!?」

 モモは急いでムツヤの左腕を回収し、本人へと手渡した。

 ムツヤが自己回復魔法で腕をくっつけると、アシノが叫ぶ。

「まずいぞ、お前ら!! 塔の外まで走れ!!」

「ちょっと、これ間に合うの!?」

 ムツヤは周りを見渡し、崩れた壁から光が漏れているのを見つけた。

 爆発する玉をそこへぶつけると、ぽっかり人が通れるぐらいの穴が空く。

「皆さん、ここから飛び降ります!!」

「い、いや、死んじゃうでしょこの高さ!!」

 ムツヤの言葉にルーはそう返す。

「大丈夫だ、そうだろ? ムツヤ」

 アシノの言葉にムツヤは元気よく返事をする。

「皆さん、これを背負ってください!!」

 ムツヤは道具を仲間達に手渡して言った。

「あらー、大きなリュックサック……。ってこれでどうするのよー!!!」

 ルーが言う通り、配られたそれはどう見ても大きなリュックサックだ。

「もっと空が飛べる羽とか、そういうの無いのー!?」

「ありません!! でも大丈夫です!!」

 揺れは更に激しくなる。モモは遠くの地表を見て足がすくんだが。

「私はムツヤ殿を信じています」

 そう言って飛び降りた。

「いやー!! モモちゃーん!!!」

「僕も行きます!!」

 あの臆病なユモトも覚悟を決めたらしく、飛んだ。

「ユモトちゃんまで!?」

 ヨーリィも続いて無言で飛び降りていった。

「ほら、つべこべ言わず来い」

「いーやー!!!!」

 アシノがルーの手を掴んで飛び降りる。その後をムツヤも追った。
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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