ギルドマスター 3

文字数 1,880文字

 トウヨウはまるで信じられんと目を丸くしたが、アシノがわざわざそんな笑えない冗談を言うはずが無いことは分かっていた。

「ムツヤだったか、話を疑うわけでは無いが本当に裏世界の住人なのか?」

「えぇ、まぁ、そうみたいなんです」

 ムツヤはまた自分の居た場所とこれまでの経緯を話す。昨日もアシノに話したばかりなので若干うんざりとしてしまうが仕方がない。

「なるほど、事情は分かった。キエーウに裏の世界の道具が渡ってしまった事は非常にまずいな」

 紅茶をひと口飲んでトウヨウは話し始めた。そこでアシノは提案をする。

「ムツヤの武器や防具を分けてもらって討伐部隊を組むのはどうだ?」

 とりあえずの提案に対してトウヨウは首を横に振った。

「いくら上級の冒険者と言えど、裏世界の道具を突然渡しても使いこなせるとは思えん。強すぎる道具は使用者も破滅させられてしまう」

 1つ間をおいて更にトウヨウは問題点を指摘する。

「それに裏の道具を下手に持っていれば、次はその人間が襲われて道具を取り上げられる可能性が高い」

「確かに……」

 アシノはトウヨウの言葉に納得をする。だが、もう1つ思うことがあった。

「ムツヤのカバンはどうする? ギルドの保管庫にでも隠すか?」

 その案にもトウヨウは白い眉をひそめて渋い顔をする。

「それも俺は危険だと思う、ギルドに襲撃をかけられるか盗みに入られるかしたら終わりだ」

 自分の提案を否定され続けてアシノは若干イラ立っていた、そこで逆に質問をした。

「じゃあじいちゃんはどうするのが1番安全だと思うんだ?」

 ふぅーっと息を吐いて全員を見渡した後にトウヨウは話し始める。

「国に事情を話すのが1番手っ取り早いだろうが、その場合裏の道具を使って隣国と戦争…… いや、一方的な侵略が始まるだろうな」

 確かにと皆は納得をしていたが、ムツヤだけ1人置いてけぼりを食らっていた。それを察してアシノが説明をしてやる。

「この国ギチットと隣国キラバーイは奴隷制度があった100年前ぐらいに戦争をしていた。今は国交もそこまで悪くなくなっているが今のギチットの国王が問題だ」

 そこまで話し、アシノは一息入れて続けた。

「国王は国を強かった頃へと戻すことにお熱を上げている。そんな所に大量の強力な武器と薬が詰まったカバンを持ち込んだらどうなるかは分かるだろう?」

 ムツヤは分かっているのか分かっていないのか知らないが、真剣な顔をしている。

「キエーウによる亜人の殺戮よりも、もっと大きな犠牲者が出るだろう」

「そ、そんな! そんなのはダメでずよ!!」

 ムツヤは思わず立ち上がってそう言った。そんなムツヤをたしなめる様に1つ咳払いをしてトウヨウは言葉を出す。

「俺はだ、キエーウは確実にまたムツヤのカバンを狙うはずだと考えている」

「そりゃそうだろうな、これ以上裏の道具が流出しないようにするならカバンを燃やすなり切り刻んじまうなりって手もあるが」

「すみません、このカバンって何をしても壊れないんでずよ」

 アシノの案、カバンの破壊はあっけなく廃案になってしまった。

 これでカバンを壊してしまうという手は使えず、必ずどこかに保管をしなくてはならない事が決まる。

「カバンの一番安全な保管場所は、ムツヤが持ち続ける事だと俺は思う」

「確かに、カバンをエサにチラつかせりゃ裏の道具を持ってる奴等が襲ってきて探す手間も省けるってわけだ」

 アシノが軽く笑いながら言うと、モモは身を乗り出して言葉を放つ。

「そんな、ムツヤ殿をエサになんてっ!」

「まー、ムツヤ大好きっ子のモモには少し聞こえが悪かったか」

 アシノにそう言われるとモモは赤面はしたが、今回は否定の言葉が出なかった。くうーっと下を向いた後にアシノの方を見てハッキリと伝えた。

「えぇそうです、私にとってムツヤ殿は大切な方です。なのでムツヤ殿の身に何かがあったらっ!」

「まぁまぁ、落ち着きなよ」

 紅茶を飲みながらアシノは横目でモモを見た。ハッとして各々の表情を見る。

 ムツヤと何故かユモトまで少し顔を赤らめてモジモジとしており、それを見てモモは今更になって気恥ずかしさが襲ってきた。

「裏の道具の対処法はムツヤが1番良くわかっているはずだし、それに裏の道具と戦うなら同じ裏の道具があった方が良いはずだ。そのカバンと、先程の話で聞いたムツヤの腕前があればキエーウからカバンを守れるだろう」

 トウヨウは落ち着いた声で言う。彼ほどの実力者になると体格や歩き方などで大体の実力が分かる。

 ムツヤのそれは完成された見事なものだった、部屋に入ってきた一目で只者ではない事は感じ取っていた。
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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