千年前の物語 9

文字数 883文字

 勇者ソイロークの偉業はあっという間に祖国に伝わる。

 敵国は停戦を申し出て、国はその条件を飲んだ。

 自分の身と引き換えに戦争を終わらせたソイロークは、真の勇者として人々に称えられた。

 ここまでが国に伝わる昔話の真実だ。

 そして、ここからがその後サズァンが歩んだ人生である。



 サズァンは絶望していた。

 魔人を倒し、平和が訪れると思っていたのに。

 希望に溢れた勇者ソイロークは絶望して死んだ。

 優しい聖女であるニシナーは心を殺し、人を殺して死んだ。

 自分だけが生き残ってしまった。

 こんな思いをするぐらいだったら、あの戦争で死んでいた方が良かったとさえ思う。

「俺を倒した所で世界は平和になんかならない」

 魔人エィノキの言葉を思い出す。本当にアイツの言う通りになってしまった。

 だが、奴は何かもう一つ言っていた気がする。

 俺の目的を邪魔することは出来ないと。

 ヤツの目的とは何だったのだろうか、それともう一つ思い出した。

「お前はこの世界に絶望する。その時、またここを訪れろ」

 サズァンの頭でその言葉が繰り返し響く。

 何かに導かれるようにサズァンは枯れたダンジョンへと向かった。

 途中、サズァンが子供たちに襲われた街で宿を取る。当時よりも更に荒廃して見えた。

 サズァンはふと、飴玉とお金を渡した少女の事が気になって、スラム街の少年に話しかける。

「ちょっといいかしら? ミルって女の子知らない?」

 少年は警戒しながらも言葉を返してきた。

「ミルだったら死んだよ」

「なっ……」

 サズァンは驚いて口をふさぐ。その様子を見ていた青年達がやって来た。

「あぁ、あの時の姉さんか」

 皆、酷く痩せて若者とは思えない。

「ミルだったら死んじまった。食い物が無くて、栄養が足りなかったんだろう」

「そんな……」

 その知らせは、サズァンの心に更に追い打ちを掛けた。

 宿に泊まる予定は無しだ。一刻も早く枯れたダンジョンへと向かわなくてはならない。

 夜通し何も考えないように歩き、フラフラの状態でサズァンは枯れたダンジョンへと辿り着いた。

 誰もいない、何の変哲もない場所だが、中へと入り、奥の方まで向かう。
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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