災厄の壺 12

文字数 1,755文字

「ガアアァァァ」

 ウートゴは脇腹から鮮血を吹き出した後、業火に包まれた。

「やってくれたなァ、ムツヤアアアアアアア!!!!」

 ムツヤは恐ろしさから剣を持つ手が震えていた。人の肉を斬る嫌な感触が手と頭から離れない。

 地面に倒れたウートゴはムツヤの元へ這いずってやって来る。

「ムツヤ…… はぁはぁはぁ…… いいか…… 人殺しは呪われるんだよ…… お前は一生呪われるんだ……」

 彼なりに一矢報いようとしたのか、そこまで言った後全身が業火に包まれて絶命した。

 剣を納めたムツヤは急に気分が悪くなった。耳鳴りがして景色が回っている。

 思わずしゃがんでハァハァと息をする。

 苦しい、何か急に病気にでも掛かったかのようだ。

 人を殺す時、より近くで、より直接的に手を下すと大きなストレスになると言われている。

 例えるならば、矢で射るよりも剣で斬る方が、殺すことに不慣れなものにとって精神的苦痛が大きくなるのだ。

 ムツヤは人を殺めることに抵抗を持っていた。いや、多くの人間はそうなのだろうが……。

「ムツヤ殿っ!! ムツヤ殿!!」

 ハァハァと肩で荒い息をしているムツヤの元に駆け寄る影が1人、モモだ。

「ムツヤ殿!! どうしたのですか!? 怪我をしたのですか!?」

 しゃがみ込んで心配そうにムツヤを見つめてモモは声を掛けていた。他の仲間達は辺りを警戒している。

「終わりました…… ウートゴは倒しました…… 俺が、俺がっ……」

 ムツヤを見かけて思わず一直線に走ってしまい気が付かなかった。足元に転がっている黒い人形の消し炭に。

 次の瞬間、モモはムツヤを抱きしめていた。甲冑で硬い感触だったが、優しさと温かさが伝わる。

「あ、あああぁぁぁ……」

 思わず涙が溢れてムツヤは声を絞って泣いた。仲間達はそれを見ていることしか出来なかった。

「ムツヤ、お前はよくやった。だが、私達にはまだやるべき事がある」

 アシノの言う通りだ。自分達はキエーウの本拠地へ向かい災厄の壺を叩き壊さなければならない。

「俺はっ、俺は大丈夫です!! 行きましょう!!」

 モモがムツヤを放すと立ち上がり言った。仲間達はそれを見て頷く。

「ウートゴの野郎は倒したんだ。後は壺を壊すだけだな。ムツヤ、先行してくれ」

「わがりまじだ!!」

 ムツヤはキエーウの本拠地へ走り出す。その後ろを馬車に乗った皆で追った。

 キエーウの襲撃は無い。先程の戦いで大方倒してしまったのだろう。

 今は壺を壊すことだけを頭に置いて、それ以外を考えないようにムツヤは走る。

 探知盤を取り出して確認をしても、辺りに裏の道具の反応はない。

 一方馬車の上でアシノは遠い目をして考え事をしている様だった。

「アシノ何考えてるの?」

「いや、あんな奴でも一応昔は仲間だったんでな」

「そう……」

「どこで道を間違えたんだろうな」

 複雑な気持ちだったが、戦いに集中するために目を瞑る。

 しばらく走ると探知盤の北側に赤い点が数個浮かび上がった。その場所にキエーウの本拠地はあるのだろう。

 裏の道具の反応がある場所へもう少しだけ近づくと、ムツヤの千里眼が使える範囲内になった。

 ムツヤは能力を使い、遠くを見る。そこには少し小さめな一軒家が建っている。

 キエーウの本拠地と言うのだからもっと邪悪で巨大な建物を想像していたが、これは意外だった。

 早速、連絡石を使ってアシノと会話をする。

「アシノさん、見えました。小さな家があります」

「そうか…… 恐らく治安維持部隊へのカモフラージュだろう。気を付けろよムツヤ」

「わがりまじだ!」

 ムツヤは魔剣を引き抜いて、それを片手に持ったまま走り出した。

 向こうも気付いたのか、フードを被った人影が大勢こちらへ向かって来るのが見える。

 数分走り、そろそろかち合うかといった時に遠くから矢が飛んできた。

 ムツヤは軽々とかわして反撃を入れようとする。

 しかし、その瞬間、魔法を撃とうとした手を止める。

「エルフ!?」

 思わずそう口に出てしまった。ムツヤを射ろうとしたのはどう見てもエルフだった。

「うがああああ!!」

 剣を構えて走ってくる者達もよく見るとオークにエルフに獣人といった亜人達だ。

「なっ、どうなってんだ!?」

 ムツヤは混乱していた。攻撃を避けるのは容易いが、何故自分が襲われているのかがわからない。
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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