VS邪神サズァン 1
文字数 1,004文字
(イラスト:東原望美先生)
ムツヤ達は長いような短いような夢を見ているようだった。
「今のが塔の……、裏ダンジョンの真実よ」
サズァンの声が目の前から響き、我に返る。
「あんた、まさか勇者ソイロークと旅をしていたなんてな」
アシノが目を伏せてサズァンに言った。
ソイロークの名は、この国に住む者なら誰しも知っている。魔人を倒し、国を侵略から守った伝説の勇者。
「えぇ、そうよ」
「俺は、俺の父ちゃん母ちゃんは……。じいちゃんも……」
ムツヤは自分の本当の生い立ちを知り、ショックを受けていた。
「今まで黙っていてごめんなさいね、ムツヤ」
サズァンは寂しげに、ポツリとムツヤに言う。
「皆、私の考えが分かってもらえたかしら?」
静まり返る中で、サズァンが語りかけてくる。
「生きていれば苦しみが必ずあるわ。物凄く、理不尽な事も起きる」
「だから皆で仲良く死にましょうってか? 全く理解できないな」
アシノはそうサズァンに返した。
「そうよ! サズァン様の過去は確かに辛いだろうけど、私達にも考えを押し付けないで貰えないかしら?」
ルーも身を乗り出して反対意見を言う。
「生きていれば、生まれに恵まれないかもしれない。周りの環境に恵まれないかもしれない」
一人ひとりを見据えてサズァンは続ける。
「生まれた種族によって、差別され、迫害を受ける事もあるわ。異なる種族同士で憎しみ合い、殺し合う事もある」
「生きていても、病気になって苦しむかもしれない、突然の事故や事件に巻き込まれて、訳が分からないまま命を落とすかもしれない」
「親に愛されず、一人で苦しむ子だっている」
「世界を平和にしようとしても、そんな事は絶対に無理なの」
誰も言葉を返せずにいた。
「そして、私が手を出さなくても、遠い遠い未来。星は崩れ、太陽も死に、宇宙に終わりは必ず来るの」
「人々がどれだけ繁栄しようとも、必ず終わるの、全て終わるの、全て無駄になるの」
「生きて、老いて、死んで、次の世代に託した所で、無駄なのよ」
「こんなの……。こんなのって、悲劇を通り越して狂気じゃない?」
ムツヤ達の中で最初に口を開いたのは、アシノだ。
「言いたい事はそれだけか?」
「えぇ、まだまだあるけど、こんな所かしら」
「アンタの言う事、確かに一理あるよ。人は生きている限り、不幸な目にもあうし、悲しいことも起こる」
そこまで言ってから、声を更に張り上げて言う。
「それでも私は生きていたい!!!」