元勇者 6

文字数 739文字

 戦う意志のある人間は消えた。逃げる者、怯えて座り込む者、それらを上空から見下す。

 今、目の前にある命は全て自分が手に握っている。そう考えるとミシロはゾクゾクした。

 地上に降り立ったミシロはゆっくりとテントに近付く。そこには子供達が怯えて端に固まっていた。

「こんばんは」

 返り血を受けた天使のような笑顔で子供達に挨拶をする。

「ま、待って下さい!!!」

 後ろから中年の女が走ってやって来た。体はブルブルと震えている。

「お、お願いです!! キャラバンの物は全て差し上げます!! ですから子供は、子供は!!」

「うるさいよ!!!」

 ミシロが一喝するとビクッと話すことを辞めた。

「何でこんな目に会ったか分かる?」

 ミシロは女と子供を見渡して言った。

「弱いのがイケナイの、弱いからこんな目に会うの」

 そこまで言いかけてミシロの頭の中に遠い日の記憶が弾けた。

「っつ……!!!」

 自分を最後まで守ろうとした母親の姿だ、女の姿にそれが写って見える。

「違う、私は、私は!!!」

 ミシロは頭をブンブンと振って記憶を振り払おうとする。

「み、みんな、逃げるよ!!!」

 そうは言ったが、子供達は怯えて動くことが出来なかった。ミシロは子供をちらりと見る。

 目が合った、怯えた目。それを見た瞬間、ミシロはテントの屋根を突き破って上空へと飛んでいってしまった。

 残された者たちは泣くことしか出来なかった。圧倒的な暴力の前に。



 ミシロはまた行く宛もなく空を飛ぶ。頭が何だかガンガンと痛む。

 私は誓ったんだ。この大嫌いな世界をメチャクチャにすると、なのに目の前の人間を殺せなかった。

「ラメル様……」

 あの城での出来事を思い出す。それよりもっと前の事も思い出す。思考が止まらない。

「もっと、もっと強くならなくちゃ……」
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登場人物紹介

名前:ムツヤ・バックカントリー


 裏ダンジョンを遊び場にする主人公、ちょっと頭が残念。

名前:モモ


 オークの女の子

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